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プロポーズ歌合戦

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ここはお墓である。こんな所でプロポーズをする者もいるのだ。さすがに邪魔するものも観客もいない1対1である。西陽を受けて男の頭頂部が光った。女はもう覚悟を決めているのか落ち着いて男の歌を聴いている。

 ♪ 僕の髪が次第に抜けて
  父と同じになったよ
  約束どうり おれんちの寺で
  結婚しようよ
  う~んん whm…
  
  古い木魚をポクポク鳴らそう
  黒い墓石が見えたら
  仲間を呼んで お布施をもらおう
  結婚しようよ whm…

女は男の頭に目をやり、軽くため息をつく。それでもこの先の経済的安定と自分の美意識とが葛藤しているのであろう。目は男の方を向いたままだ。やがて女が歌い出した。

 ♪ ラララ ラララ……
  終わる筈のない愛が途絶えた
  いのち尽きてゆくように
  ちがう きっとちがう 心が叫んでいる
  ひとりでは生きてゆけなくて
  また 誰かを愛している
  こころ哀しくて言葉にできない

男が、意味を測りかねて首をかしげる。女はそんな男を見つめながら歌う。
 ♪ ラララ ラララ……
  言葉にできない
  あなたに会えて ほんとうによかった
  嬉しくて嬉しくて 言葉にできない
  
  ラララ ラララ……
  言葉にできない
  あなたに会えて
  Uh 言葉にできない
  今 あなたに会えて Uh Uh
          (song:小田和正)

男と女はどちらからともなく近づいて軽く抱き合った……つもりだったが、あまりに強く抱きしめて、つまり上半身ばかり力が入って、バランスを崩した。よろめいたまま墓石によりかかったものだから、地震で不安定になっていた墓石が倒れてしまった。

プロポーズ後の、最初の共同作業は墓石を元に戻すことになってしまった。

作品名:プロポーズ歌合戦 作家名:伊達梁川