小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

プロポーズ歌合戦

INDEX|11ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

この星にもプロポーズに向く歌のジャンルがある。それはシャンソンだ。特に女性が歌うと効果的なようで、まだ薄明るい夕方城のお堀の側にあるベンチにはプロポーズには多すぎると思える男女が集まっていた。中には野次馬もいるのかもしれない。あるいは無料の娯楽として楽しんでいるとしか思えない老人の姿もあった。どうやら、同時にいくつかのプロポーズが進行しているようだ。
おそらく高学歴ゆえに、歳がいってしまったと思える女性が、同年齢と思える男に向かって歌っている。でも様子が変だ。

 ♪ 二人の恋の終わりを あなたは気がつかない
  あなたには聞こえない この別れの歌が
 
男が、怪訝な表情をしている。もしかしたら二股がばれたのかも知れない。女の歌は続いている。
 ♪ あなたの瞳に 愛の灯が見えなくなってから
  それでも私は歩いた あなたと一緒に
  それも終わり このまま死ぬのはいや
  私はえらぶ 私の道を行く
  あなたのきざんだ 愛のあかしを捨てて

女は、そのままサヨナラするのかと思うと、そうでは無かった。まだ未練がましく歌っている。
 ♪ でも どうして ただ一つの恋
  終わらない恋が欲しい 
  枯れない花が欲しい 滅びない命が欲しい
  あなたが欲しい あなたの心が

観客であろう男が 「欲張り~」とヤジを飛ばした。これもこの星ではやってはいけない筈なのだが、たぶん最近、女性に振られた腹いせなのかも知れない。


その場にいて、一段落するのを待っていたのだろう別の女性が歌い出した。大柄なのだが、ややハスキーな声と育ちのよさそうなお嬢様という雰囲気の女性だった。相手はホスト風の男だ。自意識過剰の顔とファッションとを見れば、同性である男からみれば軽蔑に値するような男なのだが、なぜか本気で惚れる女が少なからずいるものだ。

 ♪ きかせてよ すてきな甘い言葉
  話してね いつものお話しを
  何度でもいいのよ この言葉
  愛してると

男は、微笑みを浮かべてはいるが、目は女を通り越して別の女性を物色している。女は歌い続ける。

 ♪ 気心 許しちゃいないの
  そのくせ 聞かされていたいのこの言葉
  甘いなでるような ささやく声をきけば
  夢見ごこち またも気を許す

女の歌をどうもよくわからんというような表情をしたが、それでも男は、歌いながら女の方に向かった。軽薄そうに見えた顔も歌を歌うとまとも以上に見える。そしておそらく喋る声も軽薄そうであっても歌を歌うとよく思える。これが歌の効果なのだろう。

 ♪ あなたの燃える手で 私を抱きしめて
  ただ二人だけで生きていたいの
  ただ命のかぎり 私は愛したい
  命の限りに あなたを愛したい

男は目ばかりか、体さえも歌っていたお嬢様を通り越して、別のセクシーな装いの女性に熱い眼差しを注ぎながら歌う。その女も、まんざらでもないのだろう、見つめ返して、おもむろに語り風な歌を自分も歌い出した。
     
 ♪ あなたは誰? あなたはなぜ?
  あなたのことを 私は何も知らない
  あなただけにはかくせないわ
  どんなにあなたに夢中か
  あなたはどお? 私が好き?
  これはふたりの 愛の始まり
  
  待ってたの 待ってたの
  あなたを待ってたの
  そうよ あなたなのよ
  私が待ってたのは 
  あなた あなたなの

お嬢様風の女性が歌いやめ、「ちぇっ」と舌打ちをする。観客の男がそのギャップに惚れて、急遽参戦したようだ。バトルロイヤル風のプロポーズ歌合戦は続いていった。

作品名:プロポーズ歌合戦 作家名:伊達梁川