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表と裏の狭間には 六話―海辺の合宿―

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「合宿をするわ。」
夏休み中、八月開始直後のある日のことだ。
俺が暇つぶしに向かったアークの拠点、その一室にて。
我らが楓ゆりは、そんな事を口走った。
「合宿?」
「そう!合宿よ!」
ゆりはひまわりのような笑顔を輝かせ、嬉々として語る。
「夏なんだし海に行きたいのよ。で、ビーチつきの別荘が借りられそうだから、合宿をします!」
「このメンバーでか?」
「当たり前よ!」
………。
ハイテンションリーダー、不良、オタク、百合、よく人を誘惑する奴、いつも眠そうな奴。
このメンバーで?
「…………………。」
俺が顔面を蒼白にしているのに気付かないのか、ゆりは話を進める。
「日程はまだ決めてないけど、行く場所は海よ!各自準備しておきなさい!」
「あー………、一ついいか?」
まあ、どうせ行く事は確定しちまってるみたいだし。
今更俺がどうこう言っても事態は好転しないわけで。
だから俺は、せめてもの反撃として、ある質問をした。
「なに?」
「雫を――妹を連れて行ってもいいか?」

「雫。旅行、行くか?」
その日の夜の食卓にて。
「お兄ちゃんと旅行!?行く!すぐ行く!」
「別に今すぐ行くわけじゃねぇよ………。」
何でこいつはこうも現金なんだ。
「それにお前と二人っきりってわけでもないよ。仲間内で旅行するって話が上がったから、お前も連れて行っていいかどうか聞いたんだ。そしたらオッケーが出たからこうして誘ってるんだよ。」
「仲間内?」
「ああ。えっと………。」
どう説明したものだろう?
まさかアークの同じ班に所属している仲間、と言うわけにもいくまい。
えっと………。
「部活のお友達?」
「ああ、そうそう。それそれ。」
そうだ。俺、学校では部活に所属していることになってるんだった………。
………後でメールして口裏を合わせないとな。
「で、どうだ?」
「うーん…………。」
俺としては、折角オーケーが出てるんだから、連れて行ってやりたいんだけどな……。
それに、本人は言わないけど、友達少ないみたいだし。
どうせうちの高校へ進学するつもりだろうし、だったら一石二鳥だ。
こいつに友達を作ってやりたい。それも、関係が継続する友達を。
それに、認めるのは癪だが、あいつらの学校での権威は絶大だ。
あいつらを友達にしておけば、酷い虐めなどには絶対に遭わないだろうし。
「連れて行ってください!」
「ああ。勿論だ。」
こうして、唐突に決まった合宿に、もう一人の乱入者が入り込んだ。

「海に行くんだよね?」
「ああ。そう言ってたな。」
「じゃあ、水着買わないといけないよね?」
「当然だな。」
「じゃあ何で、お兄ちゃんはそんな不機嫌なの?」
………………………。
「お前がこんなところまで引きずり込むからだろう!」
そう。
認めたくないのだが。
俺は今、水着(女性用)売り場に来ていた。
勿論俺が率先して来たわけじゃない。
というか、出来ることなら来たくなかった。
ならば何故ここにいるのか。
それは、俺の前で、あーでもないこーでもないと水着を選んでいる、我が妹、柊雫が俺をここに連れてきたからだ。
………どんなに抵抗しても無駄だった。
『えーお兄ちゃんお願いだから選ぶの手伝ってよ。』
なんて、最初は普通に頼み込んできていたのだが。
次第にエスカレートし。
最終的には。
『お兄ちゃん…………机の三段目の引き出しの二重底の下に数多のダミーを混ぜて配置してある南京錠つきの箱の中身。』
脅迫してきやがった。
っていうか。
何で『アレ』のありかが分かったんだ!?
しかもそれぞれ違う番号で鍵をかけてあるはずなのに、何で本物とその中身を特定できたんだ!?
まあ、ここで俺が握っている雫のアレやコレやを使って脅迫し返してもよかったのだが、そんな事をしたら家庭崩壊の危機である。
という訳で。
半ば強制的に、俺はここに連れてこられたのだった。
「お兄ちゃん!これなんかどうですか?」
と、妹が差し出
「却下だ。」
「説明を途中で切上げてまで却下しますか!?」
申し訳なかった。あまりにも急を要する事態だったため、咄嗟に説明を放棄してしまった。
先ほどの続きを以下に書くと、こうなる。
『(妹が差し出)して来たのは、紺色のスクール水着だった。』
緊急で却下するのは正しい対応だと思う。
「えー。お兄ちゃん喜ぶかと思ったのに。」
「お前俺のことをどう見てるの!?」
周囲に人がいない事が幸いです。
「じゃあこれは?」
「無理。」
何だそのバカビキニ。
「もっと普通でいいだろう普通で。」
「じゃあこれで!」
あー、とあるアニメに出てた紐がビニールで出来てるアレか。
「却下だ却下。」
「うう………お兄ちゃんが喜んでくれるのって中々ないよぅ………。」
ああ、純粋な善意でやってるのは分かってるんだ。
だけど、それを許容したら人として糾弾は免れないと思うんだ。
純粋な故逆に扱いづらい妹と暮らす今日この頃です。
周囲に人がいなくて本当によかった。
「じゃあこれなんかはどうです?」
と言って選んだのは花柄のワンピース。
「うーん、ありっちゃありなんだけど………。お前に似合う水着ねぇ………。」
身長体格容姿全てが普通のこいつは、もう少し地味な水着が似合うと思う。
だから第三者の目で選ぶのなら………。これか?
「これとか?」
俺が選んだのは、落ち着いた色合いの、布面積の多いビキニだった。
ゆったりとしたスカートがついているタイプだ。
「確かにこっちのほうがいいかも。ちょっと試着してみるね!」
と言って、雫は試着室へ駆けていった。
さて。
ここで気付いた。
かなり手持ち無沙汰だ。
しかも恥ずいぞこれ。
取り残された感は否めない。
かといって試着室へ向かった雫の後を追うのも憚られるし。
どうしたものかと考えていると、意外とすぐに雫が戻ってきた。
「これにするね。すぐ買ってくるから、ちょっと待っててね。」
そのままレジまで直行。
すぐに戻ってきた。
「お待たせ。じゃ、帰る?」
どうやら、俺が居づらいことを察して、早々に切上げたらしい。
そうだな。
「折角デパートまで来たんだし、適当に食って行こうぜ。」
と、俺は気を使わせたお詫び代わりに、雫に食事を奢ったのだった。

さて。
そんなあれやこれやの騒ぎが通り過ぎ。
俺はゆりたちと打ち合わせをしつつ(ついでに『部活動』の口裏あわせもしつつ)。
旅費その他はゆりが『任せておきなさい!』とか言ってたんだけど。
そんなこんなで当日。
俺と雫は、旅行鞄を引っ提げて光坂の駅に向かった。
さて、改札前の広場で待ち合わせとのことだったのだが。
結論から言って。
ゆりたちがどこにいるのかはすぐに分かった。
平日とは言え夏休み真っ只中の早朝、人はそこそこ多いのだが。
その駅の中で、妙に人のいないエリアがあったのだ。
そこにいたのは六人。
つまり、俺と雫以外の全員だ。
思えば、こいつらの私服姿を見るのは初めてかも知れない。
では紹介しよう。
まずは楓ゆり。爽やかな青いワンピースにカーディガン。全く予想外のファッションなのに、何故か似合っている。
次に星砂煌。金髪もネックレスも不良っぽいが、それが着ている服とマッチする。詳しい種類は知らないが、とにかく『イマドキ』だ。