手遅れの告白
雲ひとつ無い真っ青な空を見上げていると、どこまでも突き抜けて飛んでいけそうな空想に捕われそうになる。
しかし現実はといえば、無様に地面に倒れ付し、まともに動かせるのは指くらいのもの。
それでも、命までは失わないだろう。
トドメを刺す間も惜しみ、弟たちはこの世界に残された“最後の敵”へ向かって駆けていった。
無様な負け様だった。
決して慢心したつもりもなく、ましてや彼との心中を望んだわけでもない。
ただ、より強く、迷いなく、勝利を熱望したのは、確かに弟たちの方だった。
恐らくは、それだけのことなのだろう。
くつくつと、腹の底から笑いが込み上げる。
そんなことが負ける理由になるなど、思いもよらなかった。
戦いが好きだった。
命を削り合うような戦いに勝利してこそ得られる、金、誇り、そして自由。
それらを、心から愛していた。
だからいつだって本気で、勝利を熱望していたのだ。
今までは。
後悔したことなど記憶にはないが、今初めて、終わってしまったことをぼんやりと悔いる。
「グレン」
名を呼ぶ。
綺麗な名だ。
本名ではなかったが、それでも彼には、この響きが彼の数あるどの名よりも似合う。
「グレン・・・・」
彼の名を、呼ぶ。
今の自分の望みは、彼と出会う前の自分が聞いたなら馬鹿馬鹿しいと鼻で笑うであろうものだっただろう。
手にするにはあまりに遠く、手にすれば途端に脆く崩れ去る。
そんな望みだ。
しかしそれでも良いと思えた。
叶わぬ願いもまた一興、そう思いながら、彼と共にあることに決めた。
そうしていつの間にか、勝利では得られぬものを熱望してしまっていたのだろう。
終わってしまってから、気付くのだ。
気付いても、無駄なのに。
もう取り返しなど、付かないのに。
「・・・・オレは、お前が好きだった」
そんな簡単なことくらい、伝えておけば良かった。
そう伝えたなら、彼はどんな顔をしただろうか。
きっと笑うだろう。
いつものように、眉間に皺を寄せて、皮肉っぽく、何かを諦めたような顔で。
優しく、悲しく、笑うだろう。
見上げた青空は美しく晴れ渡る。
彼が愛したその光景を眺めながら、二度と会えないであろう彼を想った。