魂剥がしの少女
「みつけた。」
林を歩いていると目的のモノがあった。それは人の死体だった。しかし、枝里香が欲しい‘アレ’があるかどうかは見ただけでは分からない。枝里香は手に持っていた重厚な本を開き
「warenishimese」
そう唱えると枝里香の体は光に包まれ、屍からはゆっくりと光の玉が出てきた。枝里香が唱えたのは屍から魂を剥がす法である。会話をするにも魂を剥がさないといけない。
「このまま、待ってれば天国に連れて行ってくれる人がくるけど行きたい?まだこの世界にいたいなら私の手伝いをして。肉体じゃなくて鎧に移すことになるから人間の暮らしをさせてあげる事はできないけれど。」
「まだ、行きたくはない。その条件を飲もう。」
零体独特の頭に直接送り込む音だが、若い男の声だった。そう聞くとポーチから筒を取り出し魂をその中に入れた。帰ったら鎧に定着させる法を行わなければならない。小学生という小さな体で何度も使うのは体にかかる負担が大きくなってしまう。なので、一日に使える法の回数はそう多くない。魂を連れて帰るのは1日に2回までだろう。そもそもそこまで見つかる事はそうないが。
今日は収穫があったのでこのまま帰る事にした。朝になれば学校にいかないといけないのだから。行っても専ら寝ているから行く意味が分からなくなる。孤立しているので話しかけてくる友達はいないし、教師も勉強に関して教えることがないので何も言えないでいる。一人っ子なので、昔から本を読んでいた為学校の授業等とう身に付けている。なにも最初から孤立していたわけではない。以前はたった一人だけ友達がいた。しかし、ある事件のせいでいなくなってしまった。それは、枝里香が今の生活をするきっかけになった事件でもある。
その事件は友達の紗奈江がトラックに轢かれたものだ。よくあるとは言わないが聞かないわけでもない、そんな事件だ。原因も運転手の睡眠不足が原因だった。
入学当初から勉強は小学校の内容は理解していた。そのせいで、教師や同年代からは嫌な生徒だと思われていた。そんな中紗奈江だけは話しかけてくれていた。枝里香に話しかけるうちに紗奈江も孤立するようになってしまったので、縁を切るように言った。しかし、紗奈江はそんな事するくらいなら孤立した方がいいと言ってくれた。本当の友達だと感じた。
事件の日もいつものように一緒に帰っていた。そんな中で起きた事件だった。後ろから来たトラックに枝里香は気づいていなかったが紗奈江は気づいた。危険だと感じた紗奈江は自分が逃げる前に枝里香を突き飛ばしてから移動をしようと考え実行した。そのおかげで枝里香は助かったが紗奈江はそのせいで惹かれてしまった。
その日はずっと紗奈江に付きっきりだった。救急車で運ばれる時も、霊安室で寂しくしてる時もずっといた。だから出会ってしまった、白い翼を生やした金髪の女性と。
入ってきた女性に話しかけたらその女性は驚いた。女性は自分の事を天使と言っていた-小説に出てくる姿と似ているからなんとなくは分っていた-。壁をすり抜けて入ってこなかったので物理原則は破れないらしい。天使は普通は人間には見えないようになっていると説明してくれた。まれに枝里香のように見える人間がいるが、割合が絶対的に少ないのでそこまでの注意は払っていないらしい。
「私の仕事はそこに寝ている子を天国に連れていくことよ」
天使はそう言ったが、枝里香には受け入れられる事ではなかった。なので、自分も今死ねば連れて行ってくれるのかと聞いた。枝里香にとっては紗奈江と一緒にいられないのは考えたくもないことだった。一緒にいられるのならば、自殺をしてもいいと思っている。しかし、天国には与えられた命を自ら断つものは連れていけないらしい。そう告げると枝里香には取り合わず紗奈江を屍から剥がし去って行った。
枝里香はそれから直ぐに霊安室を出て行った。葬儀にも出席しなかった。紗奈江が‘ソコ’にもういないのは分かっているのだから。
その後調べた、天国の事を、天使の事を。知識を得るのは好きだったので、全く苦ではなかったが、伝承ばかりで信憑性のあるものは無かった。そんな最中ネクロマンサーについて書かれた書物を見つけた。オカルトの一種だと一般的には認識されているが、それは本物だった。それは現在の枝里香を見れば明らかだろう。ただし適正のない者には読んでも仕方がないモノだった。中には天国に関する記述はあったが、そこに至る事までは記されていなかった。しかし、「魂を剥がす法と定着の法」が記されていた。それを目にした時枝里香は定着の法を使えば紗奈江と一緒にいられると考えた。
天使の対応を考えれば天国にいけば抵抗を受けるのは必至だろう。その為に戦力を整える必要も感じた。それから深夜に出歩くようになった。
あれからもう1年が経とうとしていた。集めた魂は100人程になるが、天国に至る方法は未だに見つかっていない。たった一人の友達とまた一緒に過ごしたい。ただそれだけの、ささやかな願いの為に明日もまた深夜に散策をする。