非常識なカップラーメン
人生には魔が差すってことがあるじゃないですか。少年時代に万引きしちゃったり。親の財布からお金盗んじゃったり。そういうことがあるわけですよ。
で、実はそれはまだいいほうなんです。なぜかというと、結果が出るから。
「怒られる」という結果に辿り着くわけです。ちゃんと『実』がなるわけです。
でもそうじゃない場合がある。魔が差した結果、全く何も起こらなかった場合もある。そういう時は非常に空しいわけなんですよ。
分かってもらえるかな。今、「うんうん、あるよね、そういうこと」って言ってる人、何人いるのかな。
え?それより、早く先に進めって?分かってますって。いえ、充分分かっているんです。でも進みたくない理由が明白にある。
結果からいうと失敗してしまったんですね。何を失敗したかって?それは今から渋々説明します。
あのですね。演芸場に手品を見に行きますよね。で、「さあ、どうなるかなどうなるかな~」って思わせといて、どうにもならなかった場合を想像してくださいね。鳩出てこなかった場合も文句言わないでくださいね。
実験には失敗がつきものです。ではいってみましょう。『非常識なカップラーメン』のはじまりはじまり~。
まずここでは進化について語らなくてはいけません。人間って進化しますよね。なぜか。
それは飽きるからです。何かをずっと続けていて、ふと「なんか同じだな」って思ってしまうんですね。それで「別のことやってみようかな」って思ってしまうんです。それが進化です。
人間は人間になる前は四足歩行だった。でもそれに飽きちゃった。だからなんか「じゃあ二足歩行でいこうか」なんて誰かれともなく言い出して、今の人間になったんですね。
今から書くことは人間の進化なんです。人間が一歩進んだ事件なんです。それを語ろうと思います。
皆さん、カップラーメン食べますか?食べますね。はい、そういうことにしましょう。
「食べませんわ、そんなお下品なモノ」
とおっしゃるお上品な方はちょっと後ろのほうへ下がっていてください。今から話すのは普通の、いわゆる一般市民のレベルのお話です。
カップラーメンを食べようとする時、まず何をしますか。
そう。お湯を沸かしますよね。で、その間にラーメンを覆っているあの透明のビニールをピリピリと苦労して破りますよね。
でもちょっと待ってください。今、あなた、どこまでいきました?え?もう、破るとこまで?そこまでいってしまったんですか?
え~っとですね。大変申し上げにくいのですが、私はそこまでいかなかった人間なんです。つまり、その『いつもの常識』に疑問を感じてしまった人間なんです。
ではどうしたか。ビデオをちょっと巻き戻してみてください。あ、最初のところへいきましたね。
そう、最初あなたどうしました?お湯を沸かしましたね。
ここです。ここで魔が差したんです。
つまり私はカップラーメンにお湯ではなく、水を入れるという実験をしてしまったんです。
はい、苦情来た!「つまんないことすんな」って苦情来た!「そんなもんで長引かせんな」って来た!
はい、よけるよける!投げられたボールをよけながら先へ進みましょう。
思ってしまったんですよ。
「水……入れたらどうなるんだろう?」
って。で、カップラーメンのビニールをピリピリと破いた私はヤカンに入っている『水』をラーメンに注ぎます。そしてセットしていたタイマーをスイッチオン。
はっきり言います。はっきり言って、どうなるかドキドキもんでした。ヒヤヒヤもんでした。まず、普通は湯気でフタがめくり上がりますよね。それがなかった。だから余計にハラハラした。
「どうにもならないんじゃないか」
それが何度も何度も頭を巡りました。三分が早かった。
「え、もう二分五十秒?まだ全然変化がないんじゃないの?」
と内心焦りに焦りました。そして試合終了のゴングが鳴り響きました。あとは判定待ちです。私は無反応のフタを恐る恐る開けてみました。するとそこには……。
ありました。水に漬かったラーメンが……。全く変化してなかったラーメンが……。
一応、箸でつついてみたんです。そこは期待した。でもカッチカチだった。うんともすんともだった。
なんていうんですかねえ。ほら。旦那さんがね?いつも仲がいい夫婦の旦那さんのほうが調子に乗っちゃって、
「たまにはこんなノリもいいんじゃないか?」
って妻に普段言わないジョークなんかをぽろりと言ってしまうわけですよ。
そしたら妻は、普段は笑顔の妻がその日に限って目線すら合わせてくれなかったっていうこと、男の方なら経験したことあるんじゃございませんか?
男の人は基本優しいし、女の人に楽しんでもらおうと努力するからちょっとした工夫をしてしまうんですね。
魔が差すんですね。それは本当に恐ろしい魔なんですね。
で、どうするつもりなんだ。これをどうしてくれるつもりなんだとおっしゃる厳しい方々。
食べました。食べましたとも。その水ラーメンを。なんか文句あるか!これで納得しただろう!
私は今回のことで『水と油』ならぬ、『水とカップラーメン』という言葉を思いつきました。
魔が差す。それ自体は、まだいいことなんです。問題は結果なんです。
作品名:非常識なカップラーメン 作家名:ひまわり