名探偵カラス Ⅲ
その事件は後日新聞に載り、あまりにも奇妙な一人の警官の死に様と、その警官が犯人と思われる犯罪の事情が知られる所となり、それは同時に被害届けを出していた真由美さんのことも周知の事実として知られることになってしまった。
そんなことにだけはなって欲しくなかったのに、悲しいかな運命は、真由美さんにとっては非情な苦しみを与える結果になってしまった。
近所の人はもとより、会社でも常に陰口を囁かれ、その声に悩まされた真由美さんは一時、自閉症的に引き篭もり、そして遂には仕事も辞めてしまった。
そして、真由美さんはしばらくすると、新たな職を探すために、知らない遠くの土地へと引っ越して行ってしまった。無論ホワイティを伴って……。
結局俺は恋を失い、俺がしたことは何だったんだろうと考えて、気分が塞いだ。そしてその日も、物思いに沈みながらいつもの公園で、仲間の鴨が泳ぐ池をぼうーっと眺めていた。
「馬鹿者がっ!」
突然、耳のそばで大声を聞き、俺は飛び上がって驚いた。それと同時に声の方へ顔を向けたが、そこには何もない。慌てて顔を戻すと、そこにはあった。
神様の顔が……。
「あっ、神様!」
「お前、自分のやったことが分かっておるのか?!」
「……一応」
「お前のしたことは殺人なんだぞ! 人、一人の命を奪ったんだぞ! それがどういうことか分かっているのか?」
「そうは言っても……、あいつは到底許せるような奴じゃなかった」
「お前は、自分が作った法律を忘れたのか? ――目には目を、歯には歯を――ではなかったのか?」
「まあ、確かに……しかし、……」
「当然、罰を受ける覚悟はできているんだろうな?」
「仕方ない。俺は甘んじて罰を受けます。しかし、仲間のカラスやチュータたちだけはお願いです。どうか、見逃してやって下さい。あいつらは俺に頼まれて仕方なくやったんです。本当です。どうか、お願いです」
「よし、分かった。神にも情けはあるのじゃ。今回に限り、あいつらの罰は免じてやろう」
「神様、ありがとうございます。――それで、俺への罰はどんな……?」
「そうよなあ、今までその黒い身体でずっと過ごしてきたから、今度は白い身体になってもらおうか? そして、ここにはお前の仲間も沢山いるから、今度は誰も知らない世界に行って、一から修行をやり直してもらおうかのう」
「白い身体……?」
俺はまたホワイティを思い出してしまった。
「本来なら、お前は人を殺したのだ。その命を奪われても文句は言えんところじゃ。だがのう、お前の気持ちが分からんわけじゃあない。今回のことでよーく分かったじゃろうが。何もかもが、『目には目を歯には歯を』が当てはまらないということが」
「はい、仰る通りです」
俺はうな垂れた。
「うむ、良し! その反省する気持ちが大切じゃ」
「本当に申し訳ありませんでした。俺が間違っていました」
「よし、その言葉を待っていたぞ! それでは今日からお前を白い鳩にする。遠くでお前の助けを待っている娘がおるから、そこへ行って、この先はずっと彼女を守るのじゃ! 良いな?」
「えっ? それってもしかして……ホワイ……」
「ただーし! 片時でもその娘を不幸にすることでもあったら、その時はまた私の命令に従って動いてもらうからな。分かったな?」
「か、神様……」
「さっ、行くが良い!」
そう言って神様が例によって奇妙な杖を一振りすると、一瞬にして俺は違う場所へと立っていた。
そして目の前には、愛するホワイティの顔があった。
だが、俺の身体は今までと違う。白い羽根の鳩だ。
「初めまして、私ホワイティよ。まだここに越してきたばかりなの。良かったらお友達になって!」
可愛い声でホワイティが俺に言った。
了