スーパー・ヒーローズ
「じゃあ瞬間移動(ジヨウント)するぜ、しっかり掴まれよ」
ジョウントが手を掴むと、次の瞬間、銀行の中に転移する。
銀行内部はジョウントが言ったとおりだった。いきなり人(それも仮装のような奴)が現れれば誰だって混乱する。
その一瞬をジョウントは逃さない。すぐに転移を行い、銃口を天井に跳ね上げ、困惑した銀行強盗の顔に一撃をたたき込む。
それと同時に僕も見張りの男に向かって棒を振るう。喉を突いたらそのまま、棒を跳ね上げ顎を叩く。さらに、遠心力を付けて横に棒を薙ぎ、男の顔にぶつける。
ここでワンポイントレッスンだ。基本的に人質が居るときは一撃で相手を伸す事が重要だ。無力化したら武装解除し、拘束するのが一般的だ。この時ロープよりもタイラップ(パソコンのケーブルとかをまとめるアレさ)とかの方がかさばらないし、便利だ。
ジョウントが武装解除及び避難を行って居る間に、僕が地下を制圧する事にした。
地下の廊下は総じて狭くて長い。狭い通路じゃ長い武器は使えない。だから棒は置いていく。無くて困る場合もあるが、あって困る場合もある。こういうときはカンと、経験が重要だ。
地下は思った通り奥行きがあり、狭かった。僕はバイクと分離すると、エンジンをフルスロットルにする。ぐんぐん加速していき、銀行強盗の一人がこっちに気がついた時には目の前だ。即座にバイクを纏い、意表を突き武装解除を簡単に済ませる。
ヒーローの戦い方の基本はさっき説明したが、意表をついた奇襲が基本的になる。かっこいいヒーローの世界だが、実は案外泥臭いもんだ。
そうこうしていると、さすがに音に気がついた他の男が廊下に出てきて一斉に僕に向かって銃を撃ってくる。しかし、エアロスミスはこんなちゃちな銃弾じゃ傷一つ着かない。これも立派な意表を突くと言う事だね。
「今降伏するなら、命までは取らない。どうする?」
こういうときは面倒だし、投了させるのが楽だ。あくまでこっちが上に居る事をアピールして、スーパー・パワーをちらつかせれば、すぐに終わる。デメリットは警察なんかで喋られる可能性が在るってことだ。それさえ飲むなら非常に楽なんだ。
たまにヒーローは儲かるのかって聞く奴は居るが、答えはノーさ。稼ぎたいなら、銀行から少々拝借する方が早い。なぜなら僕たちはボランティアだからだ。それでちょっとお小遣いが欲しいなら、自分たちの活躍を写真に撮れば良い金になる。それをタブロイド紙に売り込めば非常に良い金になるからね。
だからヒーローは仕事としては拘束時間が変則的で長いから、それでも出来る仕事を選ばざるを得なくなる。
ジョウントは自動車会社の会長をやってるし、比較的自由が利くし、僕は学生だから基本的にフリーと言った感じさ。
そんな基本的に重労働かつ、賃金なしの職業を続けるのに意味はあるのかって、君たちは思うだろう。その質問はシンプルでかつよく思うよ。
でもね、スーパー・パワーを与えられた『意味』を考えれば二つの極論に行き着くんだ。
――それを人の役に立てるか。
――それとも、自分の欲を満たすか。
僕らは前者を選んだ。社会の影でこっそり人のために戦って、偽善だと言われても、それを貫き通して、たまに感謝されるって最高じゃないか。ね、君もそう思わないかい?
スーパー・パワーが無くったって、人の為に戦うヒーローになれるんだ。
だから君も一歩を踏み出して見ないかい、僕らも最初はそうだったんだよ。
作品名:スーパー・ヒーローズ 作家名:ドナ