花嫁の父親
もう何日も雪が降っていない。昨日など春めいた風が吹き、春がそこまできていると思っていたら、今朝はまるで冬に逆戻りしたような寒さで、未明から雪も降り始めた。昼近くにもなると、雪が積もり、あたり一面が白一色となった。
「美雪の輿入れにふさわしい日だ」と父親は雪に積もる庭をぼんやりと眺めながら呟いた。そこへ、花嫁衣装をまとった美雪が近づいた。
父親は足音のほうにゆっくりと向いた。美雪の目がうっすらと涙で濡れている。二人とも何かを言いたかったが、言葉が出ない。
気が強くてめったに泣いたりしない美雪だった。こんなに気が強くて貰い手があるのだろうか、と父親はずっと心配していた。それが、今では自慢したくなるような美しい花嫁になっている。
「お父さん…」と言葉を詰まらせた。
今にも大きな声をあげて泣き出しそうであった。
父親は別れの挨拶というものが大嫌いだった。
「早くいかんか」と言うと、
美雪はうなずいたが、すぐに去ろうとしない。
「梅の花がきれいね、お父さん」
無骨で器用に媚びを売ること下手であった父は偉くなることはなかったが、実直な人間であった父を美雪は誇りに思っていた。
梅は美雪が幼き頃、父と一緒に庭に植えたものだった。その梅の木が雪と見紛うよう淡い色をした花をつけている。
「そうだな」と父親は呟いた。