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心理の服従

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百二十ボルトの時点でランジットは大声で苦痛を訴え始めた。百五十ボルトで絶叫し、 百八十ボルトで声にならない声を叫んだ。
チャーリーが「あの、痛がってますけど」と言っても、ニーマー教授は「あなたは一切の責任を負うことはありません」、「迷うことはありません。あなたは続けるべきです」などと厳然とした口調で言い、やめさせる気配がない。
次の問題、フェルマー予想の三百六十年後、フェルマーの最終定理を完全に証明したのは誰?
次、東洋の輪廻転生の思想では六つの世界に転生するが、地獄、餓鬼、畜生、人間、天界ともう一つは何?
問題はどんどん難しくなっていく。
二百七十ボルト。ランジットは苦悶の金切り声を上げた。この時点での正解はわずか三問だ。三百ボルトでランジットは実験中止を求め、三百十五ボルトでついに実験を降りると叫んだ。
「あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです」
それでもニーマー教授は決してやめさせない。
そしてついに、最大である四百五十ボルトにダイアルを合わせ、震える手でついにチャーリーはスイッチを押した。
ランジットの苦痛の声は聴こえなかった。
しばしの沈黙、そして……ニーマー教授とランジットが部屋に入ってきた。二人とも笑顔だ。
「実験終了です」
教授は手を差し出し、握手を求めた。呆気にとられるチャーリーはこれに応じる。
「ランジットさん、大丈夫ですか?」
ランジットはにこにこしている。 何百ボルトを耐えた顔には見えない。
「これはミルグラム実験と呼ばれるものです」教授がかわりに答えた。「彼はサクラ――つまり私の助手です。電流なんか流れてはいません」
チャーリーは肩を落とした。
「さて四百五十ボルトまで上げる人は、何パーセントくらいいると思いますか?」
「さあ、一パーセントくらいでしょうか」
「ミルグラムによる実験では、六十二パーセントもの被験者が最大値まで上げています。この研究室でもあなたを含めて約七十パーセントもの人がそうしています」
信じられないことだった。
「ミルグラムはこう結論づけています。人は権威ある者からの命令に接すると、たとえ不合理な命令であろうと、自らの常識的な判断を放棄してその命令に服従してしまう、と」
バカバカしい。
チャーリーは自分でそうしたにもかかわらず、その説には納得がいかなかった。
そして彼は、三百ドルを受け取って研究室を後にした。
作品名:心理の服従 作家名:うみしお