赤い靴
私はその日、夢を見た。
私は赤い靴を見た瞬間、胸に小さな痛みを覚えた。
視界一面に広がっているのは泥と土と岩と木の根だ。
私は思わず口を手で覆い、後ろに二三歩よろめいた。
土の匂いが、容赦なく私の嗅覚を襲う。
それでも、私の目は土砂の中に埋まる、赤い靴に夢中だった。
食いついて放さない、とでも言うように私の目はその靴を見る。
鈍い光を放つ、可愛らしい赤い靴。
その赤い靴には足がくっついている。
おそらく、少女の物であろうその足はピクリとも動かない。
動かない。
私はそう思った。
きっと、この少女はもう、死んでしまっている。
生気の無い、足だけが突き出ているのだから、助かるわけも無い。
私はそう思おうとする。
「お姉ちゃん」
何処からか、少年のか細い声がした。
その声は小さいばかりではなく、幽かに震えている。
次に足音がした。
小さなリズムを刻むその足音に、私は悪寒を覚えた。
此処に居てはいけない。
私は赤い靴から視線を引き剥がし、踵を返す。
「お姉ちゃん」
声が迫る。
きっと、あの赤い靴を履いた少女を呼んでいるのだと私は理解する。
「お姉ちゃん」
しばらく歩いた場所で、その声は私の真後ろからしていることに気づいた。
恐ろしくて後ろを向くことは敵わない。
震える足は逃げ出してもくれない。
気づけば、私の身長はずいぶんと小さくなっている。
足元を見れば、赤い靴を履いていた。
「お姉ちゃん」
少年の声が聞こえる。
その声からして、私の真後ろにいるはずだ。
そう思った刹那、大きな音が私の耳を裂いた。