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みっふー♪
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novelistID. 21864
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ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場

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+++2



「よいしょ、っと……、」
少女は背中に背負ったリュックを降ろした。持参したピクニックシートを屋根に敷き、その上に日傘を差してちょこんと腰を下ろす。――こうでもしないと出番がなさそうアルからな、賢明な自己判断でしゃしゃって来たのであった。
この通りおやつもばっちり用意してきたし、……すこんぶとすこんぶガムとすこんぶグミとチップスとせんべいとスティックとあと口直しのすこんぶラムネ! ほくほく顔でおやつを確認した少女が正面を向いたところで、わんこに支えられていた姉上がはっと目を覚ました。
「シンちゃん!」
姉は立ち上がって駆け出そうとした。が、またもその場にふらりと草履履きの足元をよろめかせた。
「姉上!」
走り寄ろうとした弟を制して姉が言った、
「いいのシンちゃん、わかってる、何もかもわかってるわ、……悪いのはあなたじゃない、そうよぜんぶ私のせいなのっ!」
――わぁぁっ!
姉は掌に顔を覆って泣き崩れた。
「……私が、私がいけなかったの、ただでさえふぁざこんこじらせ気味のシンちゃんにあんなどストライクのおじさん近付けるなんてっ、それで思い詰めるなって言う方がどだい無茶だったのよぅぅ!!!」
「あっ、姉上っ……?」
取り乱す姉に手を指し伸ばし、困惑気味に弟が立ち尽くす。
「どーゆーことだい?」
縁側の手前で遠巻きに彼らの様子を眺めていたまだむが眉を寄せた。
「だからー、ヤッパおっさんとメガネぼんの痴情のもつれで決定ダロ、」
猫ドロボウが肩を竦めた。
「――その他確率有効的な可能性としましては、」
CGメイドが平坦な声に告げた。
「(1)巨大生物に頭から齧られて呼吸困難、(2)自分ですっ転んで頭部強打、(3)年上未亡人との不適切関係清算の失敗……」
「アンタいっぺん本格的にメンテ出した方がよさそうだね」
顔色を変えずにまだむが言った。
「……先生、」
姉弟を挟んでメイドたちと反対側の位置に立っていた天パが、跳ね放題の天パを掻いて言った。
「こー人数ばっかりゴチャゴチャしててもアレなんで、ここはいったん出直して……」
半眼に努めて感情は押し殺していたが、内心は気が気じゃなかった。
「いーえっ」
きっぱりとした口調に髪を揺らして先生が振り向いた。――ああ、恐れていた通りの展開だ、どんだけ精巧おっさんレーダー持ちなんですかアナタはっ! 天パは心の中で頭を抱えた。
「この場に遭遇したのも何かの縁です、できるだけのことはやらなければっ」
先生は腕捲りすると、泣き崩れる姉と見守る弟とに通りすがりに頭を下げ、池のほとりにずんずん近づいて行った。
『あっちょっと困りますっ』
着ぐるみが笛を吹いて掲げたイエロープラカードを無視する形で、先生は倒れているおっさんの脈を取った。
「……?」
先生が首を傾げた。
『ああっそんな乱暴なっ』
堪らず出されたレッドカードも何のその、先生は地面に俯せたおじさんの身体をていっと裏返した。髪を垂らして胸に張り付き、心音を確認する。
(……。)
――いやだからくっつきすぎでしょうよォ先生ェェ!! 天パはギリギリ歯噛みした。
「……、」
――ウン、先生が頷いた。
「低体温で仮死状態ではありますが、大丈夫、息はあります」
「ええーっ」
――何だい何だい人騒がせな、まだむを筆頭にメイドたちがわいわい騒ぎ出した。
「――そっ……、」
少年は姉の傍らにへたり込んだ。泣き止んだ姉は放心状態であった。
「わふっ!」
姉を離れて近付いていったワン公がおじさんの顔をぺろりと舐めた。寄り添うように座り込んで冷えた身体を温め始める。
「お湯を用意しておいてください、意識が戻ったらすぐに飲ませてあげましょう、」
「ハイっ!」
すっかり脱力していた様子の少年だが、先生の指示を受けるとすぐに立ち上がり、母屋に向かって走り出した。
(……。)
――ううーんどうしたことだいちおシリーズ主役のはずなのにさっきから私の仕事がぜんぜん1コもないぞっ、デキる変人という点と言わず面全体でやっぱり俺と先生は相当部分キャラがカブるなっ!
『……』
へしゃげた赤と黄色のプラカードを地面にぺしぺし叩き付けてスネる着ぐるみの隣で、駆けて行く少年の後ろ姿を見送りながら女装子探偵は仁王立ちに腰に手を当て、そんなことを思った。
「……、」
一方、ワン公が寄り添うくたびれたおじさんの様子を、しゃがみ込んで(×趣味も兼ねて)じっと観察していた先生はふとある点に注意を止めた。
「ヘイ! カバン持ち!」
先生がパチンと指を鳴らした。所在なさそうにしていた天パが、たかたかブーツを鳴らしてたちまちすっ飛んできた。先生はカバンを開けて白手袋の上にさらにビニール手袋を嵌め、
「――しつれいします、」
おじさんの耳元からそっとグラサンを外した。ポケットケースから細い短冊形の試験紙を取り出し、濡らしたそれをピンセットに摘んでグラサンの縁をなぞって行く。蔓のあたりで変色反応が出た。
「……先生、」
見立てを聞こうと覗き込んだ先生の横顔があまりに凛々しかったので、うひゃっと心臓のあたりを鷲掴みにされた天パは銀髪を俯かせて黙った。
「お湯、準備できましたっ」
真鍮色のアルマイトやかんを手に駆け戻ってきた少年に、姉がちらと目をやった。地面に投げ出されたままの指先がぎゅっと握った草をむしる。
「何か言いたいことがあるのではありませんか?」
様子を見ていた先生が姉に静かな笑顔を向けた。
「……」
姉は俯いて目を伏せた。穏やかな調子に先生は続けた。
「話してみて下さい、カウンセリングが必要なのは弟さんではなくて、あなたの方だったのではありませんか?」
「……、」
睫毛の上がった姉の瞳が先生を映した。もう一度、先生は彼女に笑いかけた。姉は肩に息をついた。やや離れた場所で、――そうだこの手があったんだっ、女装子探偵は素早くメモ取りの体勢を整えた。
姉が静かに口を開いた。
「――そうかもしれません、だって私、あの人が氏ねばいいと本気で思っていたんですもの、」
「あっ、ねうえ……?」
自分が耳にした言葉に、少年は手にした湯呑を取り落しそうになった。結い上げた髪を振り乱し、決した眦に姉は少年を見上げた。
「そうよ! あんな人拾わなければ良かったっ! さっさと叩き出してりゃ良かったんだわっ!!」
「姉上……」
やかんと湯呑みとを両の手に弟の声は震えていた。
「もっと、言いたいことは全部話してみて下さい、」
弟には励ますような力強い視線を送り、先生は姉を促した。
「……――、」
砂利の上に座り直し、姉は短い息を吐いた。
「……最初はただあの人のこと気の毒だなって、それにシンちゃんもすっかり懐いていたし、――オイオイその懐き方尋常じゃねーだろっていうくらい懐いて懐いて懐きまくって、……気が付いたら私、おじさんに嫉妬してました。私の大事なシンちゃんとられたみたいで」
「姉上……」
眼鏡を曇らせ、少年が呟いた。先生は黙って聞いていた。ふっと薄笑みを浮かべて姉は続けた。