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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 三人の声が重なり、偶然重なった自分達の声に三人が顔を見合わせて笑い、それを見ていた聴衆が笑った。
「……て事で、とりあえず、続けて元気なのをいきたいと思います」
  
  ♪ たとえば……
  
 先々週から歌っている歌。“僕らの革命”。
  
  ♪ 風と一緒に 学校へ GO!
  
 勿論、三人用にハモ部も編曲済だ。
  
  ♪ ほんの小さな裏切りで
  
 奏の弾むようなピアノのリズムに、三人の声が弾み、
  
  ♪ 僕らの今日は……
  
 その響くハーモニーに、更に人が集まる。
  
  ♪ 変わるんだ きっと!
  
 歌が終わり、慎太郎と奏が中央の航を見る。ギターを弾きながら首のフリでカウントをとる航が、左右からの視線に答えるように顔を上げて……演奏が終了を告げた。
 新しく集まった人達も含めた聴衆からの拍手が三人を包み込む。狭いスペースには少々ムリな人数だ。
「ありがとうございます」
 その人数に圧迫されながらも、まっすぐに前を見る慎太郎。
「えーっと……」
 チラリと右を見ると、航と奏もその人数に驚いているようだった。
「ごめんなさい」
 お礼の直後の謝罪に聴衆が首を傾げる。
「折角集まって頂いたんですけど、次の曲で最後になります」
「「え!?」」
 慎太郎の右側から声が上がった。航と奏である。コピーも含めて、あと三曲ある筈なのだ。声が上がって当然なのだが……。
「シンタロ……?」
 もしかして、メニューを忘れたのかと航が勘ぐる。が、航を見て、慎太郎が小さく頷いた。視線は航の更に右へと向いている。それにつられて、右側を見る航。奏は気付いていないようだが、少し顔色が悪い。“分かった!”と頷き、
「奏。最後な」
 小さな声で奏にラストを告げた。
「タイトルはまだ未定で、曲自体もワンコーラスしかないんですけど……」
 告げながら、急に変更になったライブ内容に二人が準備出来たかどうかをチラリチラリと見ながら言葉を続ける慎太郎。
「ライブの時はこの曲を最後に……と決めてます。聴いて下さい」
  
  ♪ 顔を上げて
  
 慎太郎の声が語るように歌い出す。
  
  ♪ 僕らの声が聴こえますか?
  
 ここで歌っている時の率直な気持ち。
  
  ♪ どんなに辛い時だって
  
 Bメロからは、航と奏の声が加わり、
  
  ♪ 僕らはすぐそばにいるから
  
 その想いは三人分になる。
  
  ♪ 見上げた空はどこまでも……
  
 演奏にピアノが加わり、奥行きを増した曲。
  
  ♪ 僕らの想いが
  
 完成するのは、まだ先になりそうだが、
  
  ♪ 君に届きますように……
  
 その“想い”は少しずつ、届いているようだ。
 三人の声に続いて演奏の音が静かに小さくなり、揃って頭を下げる。
「今日から、ゴールデンウイーク後半の四連休です。毎朝・昼はムリですけど、来れる限りは来ようと思ってます。もし、見かけたら、聴いて行ってもらえると、嬉しいです」
 慎太郎の挨拶でもう一度頭を下げて、朝のライブが終了した。
  ――――――――――――
「いいから、座ってろ!」
 ギャラリーが居なくなり楽器の片付けを始めた途端、慎太郎が奏の腕を掴んだ。
「飯島くん、僕ならへ……」
「“平気”は聞かねーぞっ!」
 そう言ってすぐ近くの木製のベンチへと座らせる。
「どうしたんだね?」
 三人分のジュースを買ってきた若林氏がテーブルの上にそれを並べながら、険しい顔の慎太郎に訊ねた。
「こいつ、体調、悪いみたいで……」
 慌てて笑顔を取り繕う慎太郎。
「そりゃいかん!」
 若林氏が“ムリはいかんよ”と、奏の肩を叩く。
「ホントに、平気だから……」
「座ってろ!!」
「俺とシンタロで片付けするさかい。そこで待ってて」
 奏のステージピアノに手を掛けながら、航が立とうとする奏を制する。その様子を見ていた若林氏が状況を察し、三人に声を掛けた。
「片付けたら、ここで待ってなさい」
 何事かと、三人が若林氏を見る。
「一旦、帰った方がいいだろう。車を出してくるから、待っていなさい」
「若林さん、そこまでは……」
 遠慮する慎太郎に、若林氏が強く頷く。
「自称“後見人”なんだ。それくらい、させてくれないか?」
 若林氏に子供はいない。だから、三人が子供……いや、孫のようなのだ。放っておくなど、出来るわけがない。
「荷物をまとめて、すぐに移動出来るようにしておきなさい」
 いつもの穏やかな声とは打って変わった大人の口調。慎太郎と航が無言で頷き、若林氏は【吟遊の木立】を足早に去って行った。
「シンタロ、これ、どうする?」
 航が片付け終わったピアノと椅子を指差す。
「ピアノは俺が持つから、椅子、頼んでいいか?」
「うん」
 とりあえず、楽器をテーブルの脇に集めて、奏を囲むように二人が傍につく。奏の隣に航が座り、斜め後ろに慎太郎が立っている。
「んーと……。あったかい方がええかな……」
 若林氏が差し入れてくれた缶ジュースの中からホットレモンを奏に渡し、慎太郎にコーラを渡す。
「ありがとう」
 微笑む奏がプルトップに手を掛けるのを見て、航も自分の缶に手を掛けた。
「俺、シンタロに言われるまで、奏の事、気ぃ付かへんかった……」
 “アカンなぁ”と、隣の奏を振り返った途端、奏の手から、缶が落ちた。
「……奏……?」
 喘ぐように口を開けた奏の身体が、そのまま、膝を抱え込むようにうずくまっていく。
「奏っ!?」
 掛けようとした手をすり抜けて、奏の身体がベンチから落ちていく。
「藤森っ!」
 落ちる直前、慎太郎が奏の身体を抱え込んだ。
「藤森……」
 慎太郎が抱えたまま静かに奏の身体を起こす。
 胸を掴んだまま、さっきまで喘いでいた口が堅く食い縛られている。
「航」
 奏を支えながら、慎太郎が航に声を掛けた。
「航。藤森の胸ポケットから薬を……」
 いつ発作が起こるか分からない。だから、いつでもすぐに飲めるように胸ポケットに薬を入れて持ち歩いている。……奏の父からそう聞いていた。
 奏を抱きかかえている慎太郎は手を離せない。だから、航に声を掛けたのだが……。
「航?」
 振り返った慎太郎の目に、立ち止まったままの航が映った。
「航」
 慎太郎の呼び掛けに、黙ったまま首を振る。
「何、これ? ……なんでなん?」
 突然目の当たりにした奏の発作に、頭がついてきていないのだ。
「航!」
「こんなん……、イヤや……」
 パニくる航。慎太郎が奏を抱えながら手を伸ばしてみるが、胸ポケットにあと少しというところで手が届かない。
「航! しっかりしろっ!!」
 慎太郎の怒鳴り声に、航が慎太郎を見た。
「胸ポケットから薬を……」
 その言葉に、航が自分の胸をまさぐる。
「お前じゃねぇ! 奏のポケットだ!」
 頷きながら、航がしゃがみ込んで奏の胸ポケットに手を入れた。
「薬が入ってる筈だから、ひとつだけ、奏の口に入れろ」
「う、うん」
 震える手で薬を取り出した航が、奏の口元に薬を運ぶ。が、痛みに食い縛られた口元は硬く閉じたままだ。
「奏! 口、開けろ!」