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葎@ついったー
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die vier Jahreszeite 006

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006




バスは中途半端な時間のせいか空いていた。
二人掛けの席の窓際に陣取り,背中でエンジン音を聞く。
曇った窓ガラスを拳で拭って流れる景色をぼんやり眺めていると押さえつけていた睡魔がぞろりと忍び寄ってくる気配。
残りのバス停の数からかかる時間を概算して,携帯のアラームをセットして,大人しく身を任せることにする。

瞼の裏に浮かぶのは悪友たちの顔。
普段の仏頂面はどこへやら,照れくさそうにしながらも満面の笑みを浮かべるギルベルトと,反対にいつもへらりへらりとしているのが妙に寂しげに目を伏せるアントーニョの横顔。
ギルベルトは兎も角,アントーニョの寂しげな顔がどうにも引っかかっていた。
いつもなら家大好きで放課後まっしぐらに帰っていくアイツが,ねぇ。家族が揃って留守なのか?
こんな風に気になるのならさっき聞いておけばよかった,と思いながらため息を吐くとだんだん意識が曖昧になっていった。

ヴー,ヴー,ヴー,ヴー。
ポケットに突っ込んだ手の中で携帯が振動する。
眉間に皺を寄せながら目を覚ますと,ちょうど降りる予定のひとつ手前のバス停を出たところだった。
降車釦を押してまだ眠たがる瞼を指先で押す。

思ってたよりもキツイ。
こりゃ今日のバイトはかなりクルかもな,とため息を吐きながら首をぐるりと回した。

バスが徐々に減速し,のったりと停まる。
罅割れたアナウンスがバス停名を読み上げるのを聞きながら出口へ向かった。

「…寒」

バスの中では緩めてあったマフラーをぐるりと巻きつけて歩き出す。
ひらり,ひらり,舞い落ちる雪片。
本当にホワイト・クリスマスになったなあ。
そんなことを考えながらも意識はぞろりと今夜の客足について移行していく。
アントーニョやギルベルトには女のことばっかり考えているって思われがちだけど,実際はこんなものだ。
そりゃ,機会が目の前に転がってれば逃さないけどね。

懐にはアントーニョから貰った包み,左手には悪友二人にやったのと同じケーキの箱。
右手はポケットの中。
寒さに肩を竦めて身を縮こまらせながら歩く。
バス停から目指す実家までは五分ほどの距離だった。

うっすら雪が積もり始めた門灯を見ながらチャイムを押す。
ぴーんぽーーーーーん,と間延びした音に続いてマイクが繋がり「はーい,今行きます」と聞こえてきたのは案の定子どもの声だった。
わざと何も云わずに扉が開くのを待つ。
ほどなくして玄関のドアが開いて,大きすぎるサンダルを突っかけた子どもが顔を出した。

「よォ,アーサー」

ポケットから出した左手をひらりと振ると,ぽかん,と見上げた顔が一瞬にして眉間に皺を寄せる。

「何しにきやがった」
「何しにってお前,ここ俺んちだし」
「るっせーな!」
「んなことどうでもいいから中,入れてくんない?お前だって寒いだろ?」

雪も降ってるし,と空を指差すと,口をへの字に結んだ顔がくるりと背中を向けてさっさとドアの向こうへ姿を消した。
まったく,相変わらずだねえ。

やれやれ,とため息を吐きながら小さな背中が消えたドアへ俺も手をかけた。

玄関に出ていたのはたった今アーサーがつっかけていたサンダルとアイツの靴だけだった。
ってことはMammanは外出中,てことか。

ここにいるよ,と云うのを示すようにほんの少し開けられたリヴィングのドアを開けると,ソファに膝を抱えて座るアーサーがじろりと睨んできた。

「あのね,久々に会うのにどうしてそんな顔するかな」
「るっせー!俺はお前が大ッ嫌いだって云ってんだろ!」
「あっそ。そんなことより,アーサー,紅茶淹れろよ」
「なんで俺がッ!」
「俺,甘いのね。ミルクはちゃんとホイップすること」
「だから,なんで俺がッ!」

ぎゃんぎゃん喚くのを最後まで聞いた後,手に提げていた小さな箱をアーサーの位置から見える高さまで引き上げ,小さく揺らした。

「これ,なーんだ?」
「……?」
「お前の,好きなものなんだけどなぁ。この寒い中,せっかく届けに来たのに。俺の,自・家・製・ケーキ」

ケーキ,のところでアーサーの眉間に寄せられた皺が一瞬だけふわ,と解けた。

「いらない?」
「……ちっ,しょうがねえな!」

云いながらもソファからぴょん,と飛び降りてキッチンに向かう。
わざわざ俺が立ってるのと逆側回って行くところが可愛くないよね,ほんとに。

喉で笑いながら箱をテーブルに置くと,俺はコートを脱いでソファに放った。
その上にアントーニョから貰った包みを置いて,ケーキの箱を手にダイニングに向かう。

慎重な手つきで紅茶の支度をするアーサーの隣で手を洗う。
横目にちらりと見ると,「なんだよ」と不機嫌な顔で睨みつけられた。

「べっつに?」
「だったらジロジロ見るな!すぐできるからあっち行ってろ!」

すげない云われ様に肩を竦めて大人しくテーブルにつく。
頬杖をついて小さな背中が真剣な手つきで紅茶を淹れるのを眺める。
コイツはアーサー・カークランド。
隣家の一人息子。確か小学校四年生?とかだった気がする。
隣家とうちの両親はそれぞれ同時期に家を建てたこともあってまるで学生時代からの友人のように仲がいい。
そして隣家は普段両親揃って仕事で遅くまで家を空けることが多いので,子どもひとりで過ごすのは寂しいだろう,とうちで預かることが多いのだ。
小学校へ上がる前からコイツにとってうちはもう一つの我が家みたいなもん,てわけ。

だったらその家の一人息子たる俺は兄のようなもんじゃないの?と俺も自分で思うんだけどねぇ…。
いつからだっけ,こんな可愛くなくなっちゃったのは。

「人のこと見てため息吐くな。変態」

ほらね,人の顔見ればこの有様。
そのくせ俺の前に置かれたカップからは甘い匂いの湯気がふわりと立ち上る。
わざわざミルクの半量を使って煮出した紅茶にホイップしたミルクをたっぷりと載せてある。
甘い匂いの正体は多分,ラムに漬けた氷砂糖をひとつかふたつ,とシロップ状になったラムを落としてあるに違いない。

「Merci.」

片目を瞑って云うと,ふい,と顔を背けられる。
それに構わず,「ほら,皿とフォーク持って来いよ」と促すと,くるりと背中を向けて取りに行く。
右手に皿とフォーク,左手に自分用の紅茶のカップを持って戻ってきた。

俺は恭しい手つきで箱からケーキを取り出し皿にサーヴした。

「どーよ?」

素直じゃないアーサーは何も云わない。
けれども皿の上のケーキを見る目はきらっきらしていて,胸の裡をあっさりと顕している。

「…全部食っていいのかよ」
「どうぞ?」

ごにょごにょ,と聞き取りにくい声で云い,皿を自分の前に引き寄せる。
お前ねえ,ありがとう,くらいはっきり云ったらどうなのよ。

苦笑を浮かべつつ,ケーキに無心でフォークを使うアーサーを眺める。

「美味い?」
「……まぁな」
「まぁなって…たまには素直に褒めろよ。この寒い中わざわざ届けに来たんだぜ?」
「……うまい」
「……いや,だからもうちょっと愛想よくさ」

うるせーよ,と睨みつけられてため息を吐く。
はいはい,もう何も云いません。

「ていうかこっち見んな。エロヒゲヤロー」