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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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あやかしの棲む家

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 少女の躰から落ちた不気味なものは、瞬く間に還される。その先には祠は見えず、代わりに真っ暗な闇があった。
 奇声をあげながら、一匹、また一匹と、闇の中に不気味のものが呑まれていくのだ。
 少女の躰はあと足のみを越して鳥居をくぐった。
 最後の一匹となった不気味なものは、少女の足首に捕まり、最後の最後まで抵抗するのだ。
 不気味にものに掴まれている足首は血まみれだった。
 鋭い爪が足首に食い込み、今にももがれそうなほど痛々しい。
 瑶子にできることは糸を手繰り寄せること。
 足首の皮膚が削げ落ちる。
 不気味にものが落ちていく。
 深い闇へと落ちていく。
 ついに少女は鳥居をくぐり抜けた。
 瑶子の手元から糸は消えていた。
 そして、細道の先には闇などなく、小さな祠が元のように存在していた。
 か細い息をしている少女を瑶子は抱きかかえた。
「だいじょうぶですか?」
「…………」
 返事はなく、少女は睨むような眼で瑶子に訴えている。
 この少女の髪の間からは、二つの角のようなものが生えていた。
「お名前は?」
「…………」
 やはり返事はない。
 瑶子は少女を背負うことにした。それに対して抵抗はなかった。
「傷の手当てをしてあげます。だいじょうぶですよ、怖がらなくても」
 少女の躰は酷く震えていたのだ。それが背から伝わっていた。
 ゆっくりと歩き出す瑶子。
 その背中で小さな声がした。
「……る…りあ」
「えっ、なんですか?」
「るりあ」
「それがお名前ですか?」
「…………」
 また無言になってしまった。

 少女――おそらく?るりあ?という名の少女の手当を済ませ、瑶子はとりあえず菊乃を探すことにした。
 るりあの手を引き屋敷の中を歩き回る。
 廊下を歩いていると、急にるりあが瑶子の背に隠れた。すると、すぐに菊乃がやって来た。
「あなたの背に隠れている?それ?は?」
「すみません菊乃さん。祠の近くで見つけたのですが、怪我をしていて、それで……」
 どう説明していいのか瑶子は困った。
「祠……で見つけたと?」
「はい、そこで見つけた糸を引っ張ったら、この子が引きずられてきて……」
「今までに類を見ない出来事が起きてしまいましたね」
 この謎めいた屋敷にあって、類を見ないとは――。
 菊乃はるりあを静かな瞳で見つめた。
 睨まれていた。
 背に隠れるという動作は怯えだが、その眼は好戦的だ。
 菊乃は睨まれたことは気にも留めていないようだ。
「?それ?がなんであれ、まずは静枝様にご報告いたしましょう」
 三人は静枝の元へ向かった。
 静枝は自室で大きな腹を摩りながら、静かに時を過ごしていた。
 部屋に入ってきた三人を見ても、静枝は特に表情を崩さない。
「その子は?」
 静枝が滑らせた視線の先で、先ほどと同じように睨んでいるるりあ。
 瑶子は慌てて口を開こうとしたところ、菊乃が先に口を開いた。
「祠で瑶子が見つけたそうでございます」
「あの場所に……里の子……ではなさそうね」
 静枝の視線はるりあの角に向けられていた。
「どうなさいますか?」
 何をとは言及せず菊乃は尋ねた。
 少し間が置かれた。
 未だにるりあは瑶子の背に隠れている。
「客人としてもてなし、お世話は瑶子に任せましょう。頼んだわよ」
 静枝の言いつけを守ること。
 その言葉に従い瑶子は、目覚めてはじめての言いつけを承けた。
 静枝は言葉を続けた。
「さあ、客人を連れてお行きなさい」
 瑶子はそそくさとるりあと部屋を出て行った。だが、菊乃は部屋に残った。残れと直接言われていないが、菊乃は静枝の視線でそれを察していた。
「なんなりとお申し付けください」
「まずは、あれがなんであるか……菊乃も知らないの?」
「はじめて見ました。しかし、おそらく鬼女の子。だとするならば、この家にまつわるモノかと思いますが、古い資料を調べて見ましょう」
「禍[わざわい]とは、鬼のなす業[わざ]のさま。なにかの前触れかしらね」
「…………」
 菊乃は黙っている。
 静枝は菊乃を見つめている。なにかを菊乃に促しているのは明らか。だが、菊乃は口を開かず。
 沈黙を破ったのは静枝だった。
「下がりなさい」
「失礼いたします」
 静かに菊乃は部屋を出て行った。
 残された静枝は大きな腹を摩った。
「何か変わるのかしらね。あなたたちはどう思う?」
 腹の中からはなんの反応もなかった。