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小さな世界の小さな王子

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高校二年生の秋、俺はいつものように南校舎と北校舎を結ぶ渡り廊下にいた。この廊下には壁や屋根がなく、屋上の様になっていた。そのためか、もう冬も間近なこの時期は寒さが身に染みた。

「やっぱ、ひといねぇな」
 俺は寒さ対策のためマフラー巻き、温かいココアの缶を握りしめ一人そこに立っていた。
「ちょっと寒いが、やっぱ冬が一番だな、ここは」
 俺はココアを一口すすり、ハァと息を吐いた。
俺はこの廊下が好きだ。ここからだと校内が一望できる。眼下を覗く多くの生徒たちが部活動やら、委員会やらで動き回っている。その姿はあまりにもちっぽけで、まるで蟻の様だ。ま、これは半分冗談だが。
ここに立つと世界の頂点になった気分になる。この世界はとても小さいが。ただ、この小さな世界の中だけでいいので、一度は頂点に立ってみたいとも思う。

「相変わらず、みんな忙しそうだな」

 
しかし、来年は受験生と言う学生の俺にそんな戯言を実現させるための時間と方法はない。残念なことに。「あ、そう言えば、」
文化祭のための委員募集してたっけ。応募してみっかな。
俺はまた少しぬるくなってしまったココアを一口飲んだ。

「そう言えば、進路調査票明日までだっけ」
 どうすっかな。進路。
俺はまた一口ココアを呑んだ。

「ああ、英語の課題、今日提出だったけ」
 俺は冷え切ってしまったココアを一気にのみこんだ。

「まぁ、でもとりあえず」
 俺は秋の澄み切った空を見上げた。
「帰って寝るか」
 うん。そうしよう。
やりたいこと、やらなきゃいけないことは数あまた。
埋もれた戯言は一体どこへ行ったのか。
 とりあえず、探しに行こう。
手を広げてかき分けて、
目を見開いて探してみよう。
 今度は見つかるかな。
 
 見つかると、いいな。
 

「あ、あった。」


彼が落とした小さな戯言。

埋もれてしまった、小さな夢。

見つけられることをただ待っている、小さな願い。




彼がこの小さな世界の頂点に立つのは、

もう少し先のお話。