表と裏の狭間には 零話―前振り―
俺はつい最近までド田舎の中のド田舎にいたからよく知らなかったんだが、ちょっと『都会』に出れば横行しているものらしい。
ああ、都市伝説っつっても『黒バイク』みたいな『いかにも』なヤツじゃない。
いや、ある意味ではそれよりも更に『いかにも』なわけだが。
とにかく、最近都会の中の都会、東京に引っ越してきた俺は、新しい高校に行ったその週の内に都市伝説を知った。
曰く、『一般人の中には武装して暴力団やマフィアと戦っている組織があるらしい』というものだ。
どうだ、実に馬鹿馬鹿しい都市伝説っぷりだろ?
そうだ、俺も馬鹿馬鹿しいと思った。
だが、語ってる奴らはみんな本気だった。
『黒バイク』なんかの『普通の都市伝説』を語るときは冗談交じりなのに、この都市伝説だけは真剣に語っていた。
だが考えてもみて欲しい。
『暴力団』と『マフィア』なんて、非合法組織と聞いて真っ先に思い浮かぶ双頭だぞ。
そんな組織と戦うなど、それこそとんでもない規模で銃や爆弾をやり取りしなければならない。
それが、『一般人の集まり』とか言っているんだ。
はっきり言って無理だ。
俺はそう思う。
法的な問題ではない。
法律の抜け穴なんていくらでもある。
問題は、そんなものが存続できるのかどうか。
仮に、武器弾薬爆弾の類が十全に調達でき、技術もそこそこあり、暴力団やマフィアの一つや二つなら潰せる力があったとしよう。
だが。
そんな風に『素人』が『裏側』に入り込んだら、同時に数十の組織を敵に回しかねない。
どこで誰と衝突するか、そんなこと『素人』には分からないのだから。
そして複数の組織を同時に敵に回したら、絶対に敗北する。
技術やなにやらの問題ではなく、単純な数の問題だ。
だから、俺は馬鹿馬鹿しいと思った。
思っていた。
そうそう、最後に一つだけ情報を明かしておこう。
都市伝説となっている組織の名前だ。
その名を、『アーク』と言うらしい。
作品名:表と裏の狭間には 零話―前振り― 作家名:零崎