奇人女は自由落下を夢見る
「ん、どうした? 不思議なモノを見る目でコッチを見られても、私はどういった反応を返せば良いんだい?」
「いえ、別に、何も…」
俺は歯切れの悪い返事を返した。この人の前で物事を深く考えるのはよそう……。
「先輩はどう思ってるんですか?」
俺が訊ねると、彼女は悪戯な笑みを浮かべた。
「フッフッフッ、気になるかね?」
ニヤニヤと見つめて、いったい彼女は俺に何を期待しているんだろう…。
気になる、といわれれば確かに気になる。この先輩がどういった意図でそんな質問をしてきたのか? どういった意見があってそんな質問をしてきたのか?
俺は声には出さず、頷く形で返事を返した。
「えーとね、例えば私がココから飛び降りて死んじゃったとするでしょ」
そんな縁起でもない例えをしなくとも…。
「頭から地面にぶつかって、首の骨が折れて頭蓋骨が粉砕して、血がダクダク出て…」
そんな生々しい設定をしなくとも……。
「でも、そうやって死んじゃっても私は私じゃないダレかになってて、ベッドから飛び起きるの。そして朝食でお父さんとお母さんに〝建物の4階から飛び降りる夢見たの。怖かったー〟とか話してるの」
子供のような比喩の仕方と、語尾に『の』が多い喋り方に苦戦しながらも、俺は自分なりに彼女の説明を解釈した。
「輪廻転生?」
「まぁ、そんな感じ。難しい言葉しってるね」
彼女が「えらいえらい」と俺の頭を撫でる。
もしかして馬鹿にされてます?
そう思いはしたけれど何故か悪い気はせず、彼女の手の温もりと柔らかな感触に、むしろ心地良さを感じた。
彼女の手が俺の頭から離れる。
「君、ちゃんと髪洗ってる?なんか少しベタベタしてるけど」
「洗ってます!!」
まったく、この人は……。
そう思った矢先に彼女はガバッと立ち上がり、大きく伸びをした。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうか?」
そう言われて辺りを見れば、太陽が地平線へと沈んでいき、空が黄昏色に染まり始めていた。
「そうですね」
俺も立ち上がり、制服に付いた砂汚れをはたき落とす。
視線を戻すと、彼女は真っ赤に燃える夕日を見つめていた。毎日、地平線へ落ちていくあの光の塊になにか思う所があったのかもしれない。
そんな彼女は大きく息を吸い込んで、落ちてゆく夕日に向かって思いっきり大声で叫んだ。
「いつか絶対に落っこちてやるぅーーー!!」
そんな可笑しなことを口にして…。
終
作品名:奇人女は自由落下を夢見る 作家名:南風堂ガジュ丸