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コンストン物語

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 銀色の狐と会えなくなり、九百九十五年が経った。
 四足歩行の動物がいなくなり、二足歩行をする動物が沢山やって来て川の近くで生活するようになった。その動物は、なにやらたくさん動き回って、周りの環境を次々と変えていった。洪水の後、地面を覆い始めた緑色の原っぱは、その動物の食糧を作る平野に変わった。見あげるように育った木々は次々と切り倒され、建物になった。その建物も、二足歩行の動物が増えるに従って大きくなり、最終的にとても高い灰色の石の建物にとって代わられた。川の周りもやわらかい土ではなく、ひと固まりの巨大な石のようなもので囲まれるようになった。川は、濁ることはあっても、洪水を起こす事はなくなった。


 石は時々、銀ギツネの事を思い出す。二度と会えないであろうことには見当がついている。動物には寿命があるのだ。石は銀ギツネに会えなくなってから、様々な動物の死を目撃して来た。今も目の前で動物が一つ、鉄の塊に跳ね飛ばされて死んでしまった。九百九十五年のどこかで、銀ギツネもあんな風に動かなくなってしまったのだろうか。
 石は用もなく空を見あげた。そろそろ、銀ギツネのことを思い出すのは、止めた方がいいだろうか。思い出すたびに、石は悲しい気持ちになる。思い出すのは、もう、楽しみではなくなっていた。
 ふと石の視界を影が覆った。
 それは二足歩行する動物と同じ姿をしていた。その動物は対向性の親指を使って石をつまみ、自分の目線まで持ちあげた。そして目を細めた。
「やあ、本当に久しぶりだね」
 石は首をかしげた。銀ギツネを思わせる動物だ。
 まるで石の考えが分かると言うかのようだ。確かに二足歩行の動物は時々、まるで石と話せるかのようにぶつぶつ呟く事があるが、誰もかれも一方的で、石の話など聞きはしない。
「僕には分かっている。信じられないかもしれないけどね。僕もまだ信じられていないくらいだから」
 石にはますます訳がわからなかった。銀ギツネみたいなしゃべり方をしているが、やっぱりどう見てもこの動物は、そこらへんに沢山いる二足歩行する動物だった。
「動物もね、百年も二百年も生きる事があるって事が、実は君と別れてから分かったんだ。見てごらん、人間に上手く化けているだろう。君には敵わないけど、僕は千五年も生きているんだ。」
 石は彼の言っている事がよく分からなかった。以前に銀ギツネが言っていた事と違い過ぎた。でも目の前にいるこの動物は、まるで銀ギツネと石との会話を見てきたように語っていた。
 しかし石が気になったのが、ニンゲンとは何の名前だろう、という事だった。
「あっはっは。君は本当に自分の事しか知ろうとしないなあ」
 彼は愉快そうに笑ってから、満面の笑みで続けた。
「さあ、山を登りに行こう。そして雲と話しに行こう」
 石はようやく納得した。目の前にいるのは、まぎれもなくあの銀ギツネだった。


 白と灰と黒の混ざった不思議な色をした髪を腰のあたりまで伸ばした男が、とつぜん道端に座り込んだと思うと何かをつまんでぶつぶつ呟き始めた。それからつまんだ何かをポケットに入れると、足を軽く弾ませて、雑踏の中に溶け込んでいった。
 二人はこれから、山を登って雲に会いに行く。
作品名:コンストン物語 作家名:小豆龍