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dmc3双子短編詰め合わせ

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はじまりはいらない(1VDV)


愚かなことをしてしまったと、男は嘆いた。暗い深淵を覗き込むような部屋の扉を閉めた時確かにそう聞こえたような気がした(それは彼の言葉ではなくまた自分のでもなかったが)。外にはひどい雨が降り続いていて、暗い気持ちに更なる拍車をかけている。くだらねぇな、と吐き捨てるには男は身近な存在でありすぎたので、男から伝染したえもいわれぬような虚無感に少しだけ心をむしばまれていた。階段の下に降りていけば見慣れた事務所があり、当たり前のようにソファーや机が出迎えてくれる。男を連れて帰ったのは間違いなのかもしれないと、考えたことは数え切れない。精神的にも肉体的にも未だ安定しない男はベットの上で静かに眠っている時がほとんどであったが、激しく暴れることも少なくはなかった。しれず、暗い顔になっていたのか、件の事件でめでたく(この表記にはいささか語弊があるが)相棒となった女が腕を組みながらまたなの、とでも言うように階段をおりきったこちらを見ていた。敢えてその視線には答えずに、肩をすくめて見せると、口をはさむべきではないと判断したのかそれ以上追及されることはなかった。当然のように椅子に凭れ足を机の上に置き、読み賭けだった雑誌を顔の上に置く。女の視線は嫌というほど感じていたが、敢えて何も言わなかった。触れてほしいものでもなかった。もし彼女がどうして連れて帰ってきたのかと尋ねたのなら、自分はきっと家族だからと間髪いれずにこたえるのだろう。それは確信だった。では、彼が回復してここから出ていきたいと言ったらどうするのと尋ねたとしたらいったい自分がどうこたえるのだろうと最近の思考はそこに流れる。好きなようにするさ、と声にしてしまえば余りにもかすれて喉が引き攣るような感覚がした。自分が何を望んでいるかぐらいわからないほど子供にはなりきれない。ただ懇願すればすべてが滞りなく済むあのころとはわけが違うとわかってしまっている。流れた年月の分だけ変わってしまったものがたくさんあったのだ。昔を懐かしむことはある、だがそこは過去でしかなく、縋りつくのも空想にふけるのもただ虚しいだけだ。ダンテはそれをよく知っている。
けれどしっていたとして、それでもまだ願うことをやめられない。だからこそ、こんな状況になっているのではないか。
(ここにいてほしい、昔と変わらずそばにいてほしいなんて、)
(ああ、馬鹿げている。)