青い空と冷たい鎖
青い空と冷たい鎖
窓の向こうに空が見えた。
眩い光がこの薄暗い牢屋の中に差し込んでくる。
眩しさに私は思わず手で目を庇おうとした。
しかし手が動かない。
変わりに牢屋の壁に虚しい金属の音が反響した。
あぁ……そうか、鎖……繋がれてるんだっけ。
私は自分の手をつないでいる鎖を見つめる。
これをはめられてから何年くらいだっけ……思い出せないけど長い年月が経った気がする。
長い時を過ごしていると次第に鎖にも慣れいつしか何の違和感も感じない様になってしまった。
いつの間にか私はココロまで奴隷になってしまったのか。
私は自嘲気味に笑いながら窓の元へ向かう。
だが、途中で鎖に進行を阻まれてしまった。
あと少しというところで窓にたどり着くことが出来ない。
ここからうっすらと窓の外が見えた。
窓の外には美しい木々が生い茂っている。
今は春なのだろうか……。
春は命の季節。
生き物たちが皆新しい命の誕生を祝福するのだ。
……じゃあ私の命も祝福してくれた人がいる?
「かわいいかわいい私のアンナ……生まれて来てくれてありがとう」
「アンナ……分かるか?お父さんだよお父さん」
私の脳裏に女の人と男の人が赤ん坊を抱いているイメージが浮かんだ。
この人達……誰だろう。
なんだかとっても温かい人たち。
待って……私はこの人達を知っている。
「ぁッ……」
思い出した。
どうして今まで忘れていたんだろう……。
優しく私を撫でてくれた母の優しい手……母の様に優しくはなかったけど母と同じように私を撫でてくれたお父さんの力強い手。
良かった……私の命を祝福してくれる人……ちゃんといたんだ。
温かい思い出に浸かっていた私は不意にガシャンという鉄格子を叩く音で現実に引き戻された。
そちらに目を向けると怖い顔をした兵士が立っていた。
私をゴミでも見る様な目で見つめている。
「16番早く出ろ」
そう言って兵士は私の自由を阻んでいた鉄格子を開き鎖を外した。
16番とは私を示す番号……ここでの私の『名前』。
私は兵士の言葉に従って牢屋から出る。
「早く歩け。大臣様がお呼びだ」
そう言うと兵士は歩き出した。
これから始まることは今まで何度も何度も繰り返してきたこと。
そしてそれはおそらくこれからも変わらない。
これはきっと永遠に続く私の運命。
私は兵士の後を歩きながら窓の外を見つめた。
青色の鳥が遠くに飛び立っていくのが見えた―。