青い空の向こう側に
青い空の向こう側で 序章
「……ト………カイトっ!!」
「……ぇ?」
目を開けた瞬間、飛び込んできたのは、目も眩む程鮮やかな、金。
「ったく、何やってんだよ。もう出発時間過ぎてんだぞ。」
低くもなく、高くもない曖昧な声は、ここ数年、よく耳にしていたもの。
首の後ろでゆるく括られた鮮やかな太陽の光の色に、薄氷のような色彩の瞳。
硬く軋む寝台から身を起こして、目の前に立つ男の一つ一つに視線を向けて、やっと俺は自分がどこに居るのかを思い出した。
「……スイ………。」
スイ・ヘキエイ。それがコイツの名前。
オレと一緒に旅をしている、賞金稼ぎ兼魔術師だ。
「…ホント、ファンタジーだよな……」
賞金稼ぎや魔術師、なんて。昔はそれこそ、ゲームの中でしか聞いたことのなかった単語だ。
「……おい、カイト?どうしたんだよお前。……今日、なんか変だぞ?大体いつもは寝坊なんてしたことないお前が、オレが起こしに来るまで起きないなんて…………。」
呟きを聞きとがめたらしいスイの言葉を途中で遮って、寝台の隅に追いやられていた皮袋を引っ張り出す。
「悪い。ちょっと夢見が悪くってな。先下りてろ。」
袋の中から財布にしている小袋を取り出して放れば、それを掴んだスイの顔がガキみたいに輝いた。
……財布の紐を握ってるのは俺だから、コイツは起きてこないオレの私物の中にある財布も取れず、抗議の音を立てる腹を持て余して結局たたき起こしに来た、ってところだったんだろう。
「サンキュー!朝はいつもので良いんだろ?」
「……あんま高いもん頼むなよ。」
念のため、と釘を刺せば、「分かってるって!」という返事があわただしく閉じられたドアの奥から返ってきた。
「……ありゃ、分かってねぇな。」
あの財布の中には、1週間分の路銀がまとめて突っ込んであるのだ。下手に使われると、これからの仕事に支障が出かねない。
「さっさと下降りるか……」
申し訳程度についている鏡に顔を映して、野放図にハネまくっているクセの強い毛をなんとか一つにまとめて、皮袋の中から引っ張り出した長い紐でひっくくる。
「……いい加減うっとおしくなってきたな……。」
切るのも面倒だったので放っておいたらどんどん勝手に伸びた髪をそのままひっくくっていたのだが、さすがに毎朝この調子だと、逆に括るのが面倒になってくる。
「後で適当に切りそろえるか……。」
タンクトップの上に防御魔法を仕込んだジャンパーを羽織って、手の平と甲だけを覆う手袋を嵌め、腰のベルトに二本挿しの長剣を押し込む。
「……っと……。」
最後に皮袋を寝台から持ち上げると、袋の口がちゃんと閉まっていなかったのか、そこから物が転がり出て来た。
「…………。」
袋の底に押し込んであるはずのソレに目を細めて、拾い上げまた袋の中に戻す。
小さな紐の付いたその袋には、【交通安全祈願】の文字。ずっと持ち歩いていたせいか、ヒモは擦り切れてちぎれ、白かったはずの袋もすっかりすすけてしまっていた。
「……あんな夢、そういや久々に見たな……。」
今度はきちんと、皮袋の口がしまっているかを確認してから、何か忘れたものが無いか部屋の中を見回して、廊下へ出る。
創造暦、166年。オレがこの世界に落ちてきてから、もう10年が経っていた