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赤ずきん<赤ずきんVer>

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今日も私は赤頭巾とよばれる。
決して頭巾を被っているわけではない。

今日も狼が現れるという山に行き、彼らと遊んできたのだ。
何色の服を着ていたのかは覚えていない。遊び終わるといつも一人で、赤黒く染まっている。
ただ、そこから鉄の匂いはしないので血だということはないと思う。
気づいたら頭から、つま先までこの色に包まれ一人になっているのだ。

「ねぇ、狼さん、今日も遊びに来たんだ。一緒に遊んで?」
がさがさとなる音が彼らの合図。
「今日もかくれんぼ?今日こそ見つけてあげるんだから!」
がさがさがさ
昔から気配に敏感だった私は森の中に入る前から彼らの存在を知っていた。
「木の上に登ってるでしょ?私もそっちに行くからまってて」
気配を頼りに彼らを追いかけるのは初めて森に入った日からずっと続く遊びだ。
日々、遊ぶことで彼らの気配にとっても敏感になった。
今日もすぐに分かり木の枝に手を伸ばす。
ふわり。
身体が下から押し上げられるような浮遊感を感じ、気づけば登ろうとしていた木の幹に座っている。
「ありがとう。」
目の前の景色が揺らいで、その揺らいだ景色を頼りに手を伸ばす。
がさがさ
「今日もまだ見つからない。ここにいるのにどうして見えないの?」
がさがさがさ


気づけば山の入り口
頭からつま先まで赤黒く染まりそこにたたずむ

明日も森に行くために今日も家路をたどる

「狼さん。」
寂しくなり呟いてみる
「狼さん、狼さん」
たどっていたはずの路ではなく山の入り口にいた。

がさがさがさ
「後、少しまってて。」
私の口から洩れた言葉は無意識の物で。
しかし、その言葉に未来を想像して
「早く大人になって、見つけるからね。」
がさがさがさがさ

私は家にいて、出されるご飯に手をつける。
いつも家に着くと色は元通り

明日も明後日も変わらない

ある日私は知らない男性に声をかけられた
「赤ずきんちゃん。」
そこから後は知らない。気づけば森の中。
あの日の木の上

「狼さん・・・。」
がさがさ
「ありがとう」




あれから私は成人をした

「今日から、お前は森へ行き神様に仕えるのだ」
そう言われたのは目を覚まして顔を洗っていた時だった。

男性に声をかけられた時以来訪れてはいなかった森に再び行くと思うとドキドキした
実際はあれ以来、訪れても追い返されるように森へはたどり着けなかったのだが。
恐怖はなかった。ただ、また追い返されるかもしれないという不安だけがあった。

私は白い衣装を身につけ森へと歩いていく。
ちりん、ちりん
髪飾りが揺れて金属的な音がなる

近づいてくる、森独特の静寂感
生命の活動と自然からなるかすかな音
そこには人の作る(壊す)音はない

ちりん、ちりん
髪飾りもここまでくれば誰に見せることもないのだからと懐にしまう。
ただ、この空間にこの音を持ち込みたくなかった
ここから先はまだ入れない

「ねぇ、私、成人したんですよ。」
帰る音はない
「狼さん、今日はもう追い返しても無駄ですよ」
気配を感じた。しかし音は聞こえない
「私、今日は遊びに来たんじゃないんです。
ようやく、仕事を任せていただきました。」
気配は動かない
「もう、帰るところなんてないんですよ。」
帰る音はない
しかし、気配が動いた。
後ろにぬくもりを感じた
目はそのぬくもりの正体に隠された。

「ごめんね。
お仕事はもうないよ。」
男性の声が紡ぐ言葉は私に帰る場所がないと言っているようだった。

「狼さん」
目の前の手に触れる

「手、大きいんですね」

「あぁ、お前を守ってあげたくて」
手をなぞる

「あなたの手が見えます」

「ぅん、君に触れたくて」

「あなたの・・・。声が聞こえます。」
目からあふれる涙が手に阻まれて落ちることができず、手と眦の間にたまっていく。

「はい、あなたに謝りたくて」

「ごめんね、神様に君をあげたくなかったんだ。
誰にもあげたくなかったんだ。」

私はやっぱりと思うと同時に言葉を選ぶ

「私の赤頭巾は狼さんが理由?
あれ、皆に見えてるのに見えてる時は誰も話しかけてくれないの。」

ぬくもりが小さく動く

「最後に会った時から私の髪の毛、赤っぽいの。」

「怒ってないですよ。ただ、帰るところもう、ないんです。
私を守りたいって言ってくれた狼さんに助けてもらうしかないでしょ?」

別に怒ってない。ただ、少し心が暖かくて、でも、ちょっと不安で、逃げられないように言葉を選ぶ

「お仕事、ないなら、代わりの仕事やってくれる?」
やっと、言葉にした狼さん

「ごめんね、神様、食べちゃったんだ、みんなで」

「はい。」

「だから、今、俺はこうして存在してる」

「えぇ。」

「僕が神様の代わりやってるんだ。」

「だから、僕と一緒に森にいて」

「代わりのお仕事じゃない、最初のお仕事でしょ?大神さま。」

私は今、大神さまと一緒に森に住んでいます。

私は赤色に守られてきたのでしょう
血に染まったような髪の毛は彼の愛の証なのです


作品名:赤ずきん<赤ずきんVer> 作家名:和伊瀬