ガンマン -さらばビッグ・ジョン-
ふと気付くと、空き地の脇に出た。彼は空き地のあるものに目を止めた。
空き地の奥に土管が3本積んである。その他には何もない。あまりにも、絵に描いたような空き地だった。あまりにも出来すぎていたので、彼は、何とはなしに、積んである土管に近づいて行った。
「もうすぐ、土管に手が届く」と思った瞬間に、どこからともなく1人の男が、
「危ない!」
と叫びながら飛び出してきて、彼に覆いかぶさるように抱きつくと、ビクンッと体を硬直させて、崩れ落ちた。
すると今度は、土管の陰から、
「ボサッとするな!こっちだっ!」
と言いながら、もう1人の男が現れて、彼を土管の陰に引きずり込んだ。
「何なんですか?あんたら」
「俺の名は、ビッグ・ジョン。ケチな賞金稼ぎだ。悪りぃな。巻き込んじまって。奴ら、あの箱を狙ってやがるんだ」
ビッグ・ジョンが、顎をしゃくった先には1つの木箱があった。
「とにかく命を大切にしな!せっかく、リトル・ジョンが自分の命と引き換えに守ってくれたんだからな。おおっと、別に、お前さんを責めちゃいねえ。かたきは奴らから取ってやる!この右目と左腕の借りと一緒にな!」
そう言ったビッグ・ジョンは、西部劇の映画から抜け出たような格好をしていた。皮のベストのヒダヒダが、ちょっとやりすぎという感じだったが。なぜかライフルのように箒を抱えていて、彼の右目は黒い眼帯が覆い、シャツの左そでは空だった。
「奴らって、誰も居ないじゃないですか」
そう言って、彼が不用意に立ち上がったその瞬間に、1人の男が、
「危ない!」
と叫びながら飛び出してきて、彼に覆いかぶさるように抱きつくと、ビクンッと体を硬直させて、崩れ落ちた。その男は、リトル・ジョンだった。すると、すぐさまビッグ・ジョンが、
「ボサッとするな!こっちだっ!」
と言いながら、彼を土管の陰に引きずり込んだ。
「あの人、さっき、死んだんじゃないんですか?」
「何を言ってやがる!恐怖に負けるんじゃない!そうだ。こんな話を知っているか。ある男が、壁の向こうが見られるレンズを通信販売で買った。しかし、商品が届いて見ると、それはただのドア用の魚眼レンズで、説明書には、こう書いてあった。『壁に穴を開けて、このレンズを取り付けて下さい』ってな。さぁ!勇気を振り絞るんだ!」
「おっしゃることが良く分かりませんが」
「くそぅ!弾切れだ」
ビッグ・ジョンは彼の言葉には耳を貸さずに、箒をいじりだした。やがて、
「良く見えねぇな」
と言って、眼帯を外した。
「あのぅ、右目は奴らにやられたんじゃあ……?」
「あぁ、奴らのお陰で物貰いが出来ちまったぜ」
更に、ビッグ・ジョンは箒をいじっていたが、
「ええぃ!面倒くせぇ!」
と言って、懐から左腕を引き抜いた。
「あのぅ、左腕は奴らにやられたんじゃあ……?」
「あぁ、奴らのお陰で湿疹が出来ちまったぜ」
「あのぅ、僕、帰ります」
「確かに、こうしていても埒が明かねぇ。俺が突撃をかける。お前はその隙に逃げろ。なぁに、気にするな。これは、俺たちの世界の問題だ。止めるんじゃねぇぞ!男には、やらなければならない時があるんだ。あばよ」
ビッグ・ジョンは、素早く立ち上がると、ライフルを構えるように箒を持った。しかし、すぐに苦しそうに胸をおさえると、崩れ落ちた。
「く、くそぅ。やられた。俺も、ここまでか」
「別に、血も何も出てませんけど」
「気休めはよしてくれ。自分の体のことは、自分が一番良く分かる。すまねぇな。力になれなくて」
「あの箱の中には、一体何が……」
「へっ、好奇心の強い仔猫は長生きしねぇぜ。いいか、あの箱はパンドラの箱だ。ありとあらゆる恐怖が詰まっている。絶対に、開けるんじゃ、ねぇ……ぞ」
そう言うと、ビッグ・ジョンは、事切れた。それは、戦って戦って戦い抜いた男の死に顔だった。
しかし、そんなものはうっちゃって、彼は、箱を開けてみた。中を見た彼は、息を呑んだ。そこには、高野豆腐に木綿に絹ごし……。ありとあらゆる豆腐が詰まっていた。
(おしまい)
作品名:ガンマン -さらばビッグ・ジョン- 作家名:でんでろ3