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ねこは炬燵で

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 ねこは炬燵で「ねこ・炬燵・うっとり」



 とにかく暑い。くそ暑い。タオルで何度拭いても額から汗が滲んでくる。これだから夏はイヤだ。麦茶に入れた氷がカランという音もろくに立てずに消えていく。
 これはアレか。地球温暖化ってやつか。温室効果ガスがどうのこうのってやつか。こうなったら、もう水星あたりに移住するしかないじゃないか。
 テレビの中で騒いでいる水着の男女は涼しげだけど、そんなものを着られるボディではなくなったアタシが海やらプールやらに行ける筈もない。
 だいたいドコへ行くにしてもこの狂ったような炎天下を歩いていかなくてはならない。駅に着くまでに身体中の水分が全て蒸発してしまうのは間違いなかった。
 だから、最善の策としてこのように家の中でグッタリしているのだ。

 クーラーとかいう近未来システムなどウチにはないから、たとえ送られてくる風が生暖かくても扇風機は夏の最重要アイテムだ。これが壊れたらこの部屋は本当の地獄と化すだろう。
 冬の炬燵も”ねこ派”のアタシを脱出不可能にする最強の暖房器具だけれど、今は使いづらいちゃぶ台になり下がっている。ウチのは実家から持ってきた古いやつだから裏面の中央にレモン型の赤外線ヒーターを囲った網が出っ張っていて、今みたいに複数の人間が入っていると狭苦しいことこの上ない。
 太腿に触れた足先を気晴らしにつねってやると、寝っ転がってテレビを見ていたアイツが上半身を上げた。
「どした?」
 人種が判別できない程に日焼けした顔がこちらを向く。 
「……別に」
「なんだ、構って貰えなくて拗ねてんのか?」
 その笑顔があまりにも元気そうで腹立たしい。風通しが最悪なアタシの部屋に来たって「サウナみたいだな」とか言って喜んでいる変人だ。
「違うよ……暑いからイラついてんの」
「そりゃあ夏だからな」
「夏は一番嫌い」
「前は冬が一番嫌いだって言ってなかったっけ?」
「うるさいなあ。今は夏の話をしてるんだよッ」
 暑がりで寒がりなアタシと違ってコイツは夏でも冬でも楽しそうにしている。太陽がギラついても雪が降り積もっても喜んで庭を駆け回るアホ犬だ。
「暑けりゃ服なんて脱ぎゃいいだろ。誰も見てねーんだから」
 そう言って、さっそく真っ赤なTシャツを脱ぎ捨てる。
「アンタみたいな原始人と一緒にしないでよ」
「うっとりした顔してんぞ」
「バカじゃないの」
 ガテン系の仕事をしているコイツの身体はやたらと鍛えられている。汗ばんだ分厚い胸がボディビルダーみたいに黒光りしていた。
 アタシが好きなのは少女漫画に登場しそうなスリムでクールなジェントルマンだと何度も言っているのに、ちょっと自慢げに筋肉を見せつけてくるのがムカつく。
 この前、駅の階段でヒールが折れた時も大勢の人がいるのに突然抱きかかえられてメチャクチャ恥ずかしかった。「降ろせ」って何度言ってもそのまま家まで余裕の表情で歩いて「お前、見た目より軽いな」とか笑いながら言いやがったんだ。  
「しょうがねーな。一汗かいてから一緒にシャワー浴びるか」
 上半身裸の野蛮人がニヤニヤしながら立ち上がる。見上げるといつもより大きく見えた。
「ちょっと近づかないでよ、暑苦しい」
 胸元の汗をタオルで拭きながら、冷たい視線を送る。
 この単細胞を絶対に調子に乗らせてはいけない。 
 顔が火照ってるのは、あまりの暑さにのぼせているだけなんだから。

 でも、グイッと飲み干した麦茶はすっかりぬるくなっていて、思わずアタシは観念したように溜息をついた。
作品名:ねこは炬燵で 作家名:大橋零人