泣き虫の薬
今、俺の目の前にはもっとも愛しい最愛の恋人が。
めちゃくちゃ泣きそうな顔で、俺の腹に対して痛くないパンチをしてきた。
「……なに?」
「ぅっ……うるはいっ!」
ぽこぽこぽこぽこ。
まったく痛くないけど、コイツはひたすら俺の胸板を叩いてくる。
痛くないから別に良いけど、なんでそんな泣きそうなのかは気になるなぁ…。
俺のせいっぽいし。
「…なぁ、俺なんかしたっけ?」
って、言った瞬間。
すげー泣き顔で睨んできやがった。
まぁ迫力ないからびびんねーけど。泣き顔だし。
「ぉ…おえの、くっきーかえせよぉ!」
「はぁ?」
予想外の言葉に思わず顔をしかめたら、ビクッと肩を震わせた。
いや、びびらせるつもりじゃないけど。
この顔は生まれつきだし。
「ぇーと、クッキー?」
「ぅ、うん…おぇ、おれのくっきー…おまぇ、食べちゃった…ぅ」
あー…、思い出した。
昨日夜中に目覚まして、水飲みに台所行って、でたまたまそこに美味そうなヤツを見つけて。
パクッと…。
「あー…、アレお前のだったのか…」
「ちが、くて…うぇ、」
「あー、とりあえず泣き止め。なに言ってるか分からん。」
「ぅわああああぁん!」
「だーっ!泣くなっての!」
うわあああんとか、お前はの○太か。
とりあえず俺のシャツで顔を拭いてやる。
が、鼻を摘んでやった瞬間、ちーん!と鼻を鳴らす音が響いた。
「げっ!お前、人の服で鼻かむなよ!」
「っぅう…ぁぁああああん、ばかぁぁぁぁ!!」
「あー!はいはい、分かったから泣き止め!」
「うぇえええん…おこっでゆぅ!」
「怒ってねぇから、泣き止め!」
「うぅぇええ……とまんなっ、ぅむぅ…」
「はぁ…」
シャツで顔をがしがし拭いてやると、俺の好きな大きくてまん丸な瞳がパチクリ開いた。
とりあえず怒鳴らず、優しく聞いてやろう。
「で?あのクッキーはお前のだったのか?」
「ぅぅん、アレは孝弘の。」
「………は?」
思わずまた眉間に皺を寄せて睨んでしまう。
コイツが「あぅ…」とか言いながらまたビクッとしてすぐ我に返る。
イカンイカン、別にびびらせたい訳じゃないからな。
「えーと、なんで自分のを自分で食って怒られるんだ?」
「ち、ちがう!アレは孝弘のじゃないもん!」
「へ?は?え?どゆこと?」
意味わからなすぎて自分も何言ったか分からん。
てか俺のじゃないの?
今、俺のつったじゃん。
わけわからん。
「だ、だから…あれはぁ…」
「うん。」
また泣きそうだから、なるべく優しく聞いてやる。
「お、おれが…つくって……そんで、」
「うん…。」
「たか、ひろ…に……あげたかっ…た…な、て…」
「………」
やっべぇ。
ちょう嬉しい、てかコイツちょう可愛いんですけど。
え?なに?俺の為に作って、そんで自分で上げたかったのに俺が勝手に食べたから泣いてたと。
なんだソレ、天使か、嫁か、嫁だ。
やっっべぇぇぇぇぇぇ!
今、軽く死ねる。
…なんてこと、俺あんま顔に出せないタイプだから。
ぎゅう。と思いっきり抱きしめてやった。
腕の中で痛いとか、苦しいとか喚いてたけど、とりあえず無視して抱きしめる。
「た、たかひろ!」
「んー…?」
「ま…またつくるから…そん時はかってにー…んむぅ!」
思いっきりキスしてやる。
舌を軽く噛んで、吸う。
それだけでコイツは肩を大きく震わせる。
ああ、愛おしい。
チラッと目を開けると、必死に俺にしがみ付いて目をぎゅっ、と閉じてる。
こんな顔も好きだけど、俺的には…なぁ?。
「輝。」
「んっ……ぁに…?」
名前を呼んでやると、大きくて綺麗な瞳が見える。
うん、やっぱ。コイツはこういう顔してた方が可愛い。俺は好きだ。
「ごめんな。勝手に食っちまって…」
「ぅぅん。また作るから……もうゆるす。」
「はは、そっか。」
二人でぎゅうぎゅうしてたら、ふいに輝が顔を上げる。
あ、ちょっ、上目遣いは反ry
「たか、ひろ…」
「ん?」
「あの……どう、だった…?」
「うん?なにが?」
「あ、味……」
言うなり、また顔を伏せてしまう。
ああ、クッキーの味か。
別にまずかなかったし、美味かったと思うけど。
まぁ、普通。なんて言ったらまたしょげそうな気がするなぁ。
「んー……」
「おいしく、なかっ…た?」
「いあ、美味かった。」
「…ほんと…?」
「本当。」
「まじ…?」
「おおマジ。」
真顔で言ってやったら、コイツはまた何とも嬉しそうに笑った。
かーいーなぁー。
へらへら嬉しそうに俺の膝ん中で笑うから、またキスしてやった。
「てか、お前ってキスすると泣き止むのな。」
「へ?ちがうよ。ぎゅってするとほわーってなる。」
「あー…そう。」
「うん。」
結局どっちでも嬉しいけどな。
END,