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怪人と地球と遠近法

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遠くから見るときれいだったり立派だったりするものも、近寄って見てみるとがっかりすることがよくある。
おれが初めてその真理を目の当たりにしたのは、「遠近法」という言葉を知るよりも前のことだった。
宇宙から見た地球の写真は、おれの知っているどんな色よりも「青」で、なるほどこれなら怪人が飽きもせず侵略に来るのもわかるなと幼心に納得したものだった。おれがまだヒーロー番組に夢中になっていた頃の話だ。
「地球は青かった」この言葉と地球の写真、どっちに先に出会ったのかは忘れてしまった。
知識も技術も、ついでにユーモアもある、とにかく完璧な人しかなれないという宇宙飛行士の人が、数あるボキャブラリーの中から、こんな中学生でも英訳出来てしまいそうな単純な表現をしたことに、最初は腑に落ちなかった。それはよく覚えている。
でも、今ならなんとなくわかる。
地球人にとって、地球は青色じゃなかったんだ、きっと。
父さんや母さんみたいな「一般の社会人」が眉間にしわ寄せて「こりゃひどい」とつぶやきながら見るようなドキュメンタリー番組から見た地球の「青」は、いろんなゴミに覆われて見えなかった。一つ一つの正体なんて、あまりにも数が多すぎてわからなくて、ただ圧倒的なまでの汚れの下に本当にあの「青」があるんだろうかとぼんやり思った。
たぶん、どんなに目を凝らしたところで、宇宙からはあの汚れなんて見えないんだろう。
今でも、地球の写真を見るとときどき考えることがある。
ヒーロー番組の中の、地球侵略にやって来たあのたくさんの怪人たちも、おれと同じことを思ったんじゃないだろうか、と。
ただ単純にきれいだから魅かれて、着陸してみて「なんか、思ってたのと違うなぁ」と戸惑ったのかもしれない。
無重力とはほど遠い重力に自由を制限されて、難解な化学式の、ただ体に悪いということだけはわかるガスが充満していて、本当に地球は青いんだろうかと疑ってしまうような色の地面が延々と広がっているこの星に降りて、ため息をついたのかもしれない。
そういうことなら、たった1年で侵略をあきらめていなくなってしまうことにも頷ける。宇宙の彼方にある彼らの星に帰ったのか、志半ばで地球の勇士たちに全滅させられてしまったのか、そこは定かではないけれど。
ただ、もしも機会があるなら。そんな機会がないことなんてさすがによくわかってしまうほどには年を重ねたつもりだけど、仮に出来るとしたら、おれは彼らに聞いてみたいことがある。
君たちがいた場所とこの地球、どっちの方がよかった?と。
こればっかりは本当にどんな答えが返ってくるのかわからない。自分の想像で満足して、わかったような気になることが出来ないんだ。
「こんなところに来るんじゃなかった。こんなことなら、今までいた場所の方がマシだった」と言って寂しそうに地球を見やるのだろうか。
「やっぱり地球の方が全然いいね。おもしろいものもたくさんあるし。少なくとも、今までいたところより、ずっといい」と言って楽しそうに笑うんだろうか。
「言い悪いは別にして、仕方なかったんだよ。こっちにもいろいろ事情があって、ここに来るしかなかったんだからさ」と言って怒りだすんだろうか。
他にもきっといろんなリアクションや突飛な価値観があって、おれには思いつきもしないような理屈で彼らは動いている。そう思う。
ただ、共通していることは一つ。
彼らは地球にやって来て、少し時間が経つといなくなる。
それはきっとおれも、おれ以外の地球人もみんなそう。
どこかからやって来た怪人の彼らも、生まれたときから地球以外の環境で生きられないおれたちも、たぶんいつまでも同じ場所にはいられない。
ヒーロー番組を見なくなってだいぶ経つ。おれは高校生になった。そして、この場所を離れるときも近い。次は大学進学か、就職か。
小学生の頃は中学生に、次は高校生に、それぞれのタイミングでそのちょっと先を見ては、その場所に何かがあるような気がしていた。何度も何度も、遠近法のイタズラにひっかかっては、「次こそは」とまた先を見た。
そろそろ、懲りてもいいんじゃないかなとも思う。
それでも、今でもヒーロー番組は名前を変えては続いていて、似たような理想を掲げた怪人たちが先輩たちの二の舞を踏み続け、判で押したような最後を遂げて、地球からいなくなる。
きっと、おれと彼らを先へと動かすものは大して変わらないんだろう。
だからこそ、おれは彼らに言ってほしい。
「地球は、本当に青くてきれいだな」と。
ただ、それだけを。
作品名:怪人と地球と遠近法 作家名:やしろ