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狼の騎士

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 一人はぐれたのか。人数を数えてみたが、新兵は全員いる。もしや、一番後ろにいた兵士が? そういえば、三人いたはずなのに二人しか見当たらない。フェルティアードと話すのに前方に移動したのかと前を見るも、当の彼は幹部兵と言葉を交わしている。すぐ隣にいるのは警護役の兵士で、話が終わるのを待っている様子ではない。目を移す過程で兵士の数も数えなおしたが、やはり一人足りなかった。
 まさか、道中に敵が潜んでいて、襲われたっていうのか? 二人に気付かれずに? しかし現に、二人になってしまった元三人の兵はフェルティアードに報告しようとしている。彼らのすぐ前、新兵の列で見れば後部にいた同期などは、やはり同じく敵の存在に思い当たったのか、顔が青ざめているようだった。
 がさがさと揺れた低い位置にある枝と茂みは、その表情からさらに色を抜いていった。彼らはもちろん兵士二人も、間を空けていたゼルもとっさに身を低くする。風ならいいのだが。幹の陰から、あるいは茂った草木を押しのけ、何かが飛び出してくるのでは。
 目を凝らせば凝らすほど、緊張で体が固まっていく。出てきたのが小動物であっても、柄にかけた手が得物を抜けるとは思えなかった。
 一際大きく揺らいだ茂みが、大きく割れた。
「死ね!」
 獣ではない。人間。それと同時に理解できたのは、その人が細長い刃物を掲げていることだけだった。凶器は一直線に、硬直していた一人の新兵の胸に吸い込まれていった。
作品名:狼の騎士 作家名:透水