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まあ、神様じゃないんだけれど

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ふと、足元を見下ろしてみる。
 沢山いるなあ。と、彼は思った。彼が見下ろしたそこには、生き物がひしめいていた。あまりきれいな光景じゃない。最近そいつらは住処をひょこひょこと建てる。その巣の背が高かったりして、彼は時々つっかかりそうになった。
 邪魔だなあ、とは思うが、彼は見ているだけだ。だって、彼はちょっと特別なだけで、結局見てるぐらいしかできないのだ。彼は歩いていた。
 彼は夜が好きだ。なぜなら、うめつくす生き物が自分たちの巣穴に帰るからだ。そうすると、彼の足元はすっきりするのだ。そして彼は上機嫌になる。
 けれど、気持ちがよくないからといって何かするわけでもない。それは彼が少ししか特別ではないからだが、彼が何かできる力を持っていたとしても、彼は何もしなかっただろう。彼はそんなやつだった。
 でも、今は昼なのに、彼は上機嫌だった。なんていったって、今日の風が気持ちよいからだ。
 ああ、このままずっと、歩いていたいなあ。
 と、彼がそう思った途端、彼の景色がゆれた。そして、とてつもない轟音が徐徐に聞こえてくる。どうしたんだろう、と彼が見ていると、よく見えないが波があっちのほうからやってきて、彼の足元の景色が全部水浸しになってしまった。それは大きな水溜りで、どこまでも続く水溜りだった。
「あ、しまった」
 彼はようやく立ち止まった。彼はちょっと特別だった。彼は生まれたときから宙を歩ける力を持っていたのだ。彼は今、日課である空の散歩中だった。
 海に沈んでしまった彼の生まれた島国を見て、彼はちょっと考えた。いやまさか、ちょっと特別だっただけで、帰れなくなってしまうとは。まったく、不運不運。
 しかし、彼はにっこりと笑った。
「まあ、いいか」
 彼はそのまま散歩を開始した。だって彼は、なんてったって、特別なのだ。



ただ今空を歩行中