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さとがえり

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「なあ……お前ってさ、確か最上位の天狐とか言われてなかったっけか」
「まあ最上位の天狐といっても私だけではありませんし、九尾さまの足元にも及びませんけれど」
「そうなんだ。…それにしたっても、なんというかこう……普通すぎじゃないか?」
「ここで人間の価値観を述べられても困ります。それに、人間の普通というのは貴方が思う以上妖狐にすればもっとずっと大変なんですよ」
「そうか…そんなもんか…だけどなあ」
「だいたい、私だって生まれたときから位が高かったという訳ではないんですし」
とある一軒の建物を前にして、鵺野と玉藻はあてどもなく問答を繰り返していた。
夏場とはいえ、もう辺りは暗く、玄関の上にぽつんと灯るあかりだけが頼りだ。荼吉権現天狐の生まれ育った家、となにがしかの期待感を抱きつつ案内された鵺野が目にしたものは、至極平凡な、ちょっと田舎に行けばお目にかかれるような建物だった。
暗くて全容ははっきりしないが、お世辞にも「立派なお屋敷」とは言いがたい一軒家、いや面積というか規模で言えば確かに立派なもので、平屋の学校か公民館のようにも見えるほどだ。とにかく九尾の屋敷よりは劣るにしてもでーんと立派なものなんだろうという鵺野の期待はあえなく潰えた。
「しかし古そうだなあ。築何年になるんだ? 400年とかしてるのか?」
「100年くらいがせいぜいじゃないですか? 詳しくは分かりませんが古材を使っているので古く見えますが、構造部分は定期的に手を入れていますから、強度は間違いないですよ」
「でも…なんかこう、もっとキラキラしてそうというか…」
「……いろいろと好き放題言いますね。まあそんな事はどうでもいいじゃないですか。とりあえず、立ち話も何ですからどうぞ」
「お、お邪魔します……」
家が大きいとはいっても、間口のサイズはそうそう変わるものではない。昔ながらの硝子が嵌められた引き戸に、鵺野は昔住んでいた祖母の家などを思い出す。
ガラガラと音を立てて「ただいま戻りました」と、玉藻は無人のような暗い屋内へ声を掛ける。しかし答える声も誰かが出てくる様子もない。ただ次々と灯る明かりが歓迎の意味らしかった。
普通の人間ならば悲鳴の一つもあげるところだろうが、あいにくとこの程度の怪異は地獄先生たる鵺野には日常茶飯事だ。
「さあ、どうぞ。面白くもなんともありませんが上がってください」
玉藻はにこやかに手招いた。
「お…おじゃまします…」
靴を脱ぎ、どっこいせと上がると、歩き出した玉藻の後をいそいで追いかけていく。しかし、久しぶりの『息子』の帰省に、親達ですら姿を見せる気配もないとはどうしたことだろうか、と首をかしげた。先ほどの九尾の屋敷で受けた歓待ぶりと比べてあまりにも寂しすぎる。
「…家の人、留守なのか?」
「いいえ、居ますよ。ちゃんと連絡入れてますから間違いなく―ああ、今現在この家には父だけです。母と一番上の姉以外はおそらく九尾さまのお屋敷にいます」
勝手知ったる玉藻は長い廊下を歩き出す。照明は玉藻の行く先に先んじて次々と灯っていって、まるで誘導灯のようだ。
「何て言ってた? おとうさん」
「特に…別段なにも」
「そーんなもんかぁ?」
玉藻の淡泊すぎる返事に、何となく納得しないものを感じて鵺野は食い下がった。
「至って普通と思いますよ。あ、そうそう。『連れ合いを伴って帰るので』と伝えたら、赤飯を炊こうかと言われました」
「つ、連れ合い…?」
現状として、鵺野は『連れ合い』と言うにふさわしい立ち位置にいる。それは例えば『嫁』とか『パートナー』とか言われるよりもっと真実味が強い感じがして嬉しくもあり照れくさくもある。それにしても祝い事イコール赤飯という図式が懐かしく、意外に嬉しいと思う自分に気付いて少し驚いた。
「それで……あ、何か間違ってました?」
「や、まちがい…じゃ、ない…かな?」
「それでですね、ちゃんと『赤飯ではなくて、普通の御馳走を用意して欲しい』と伝えましたから」
玉藻は振り向きざまに微笑んでご心配なく、と付け加える。鵺野が気にしたのはそういう事ではなかったのだけれど、あえて訂正しようとは思わなかった。
「あ、そーなんだ、あ、はは…は」
とりあえず笑ってごまかし、玉藻の案内のまま、てくてくと長い廊下を歩いていく。
(本当に誰もいない……)
途中、数カ所の部屋を覗いて、誰も居ないことを確かめたあと、「下か」と玉藻は呟く。教室に換算して2つ分ほどの廊下の突き当たり、壁に紛れて設けられた扉を開けると、さらに奥につながる短い廊下と、地下に続く階段とが見えた。
「なあ玉藻。ところで俺たちは今どこへ向かっているんだ?」
流石の鵺野も少々心許なくなって来て玉藻にそう問うた。玉藻は下降する階段で先導しながら「書斎です」と短く言い、言った後で説明不足と気がついたのか「父は…本の虫なので、いったん籠もるとなかなか出てきません。正直に待っていたら休みが終わってしまうので、こうして会いに行くんですよ」と付け足した。
「なかなか…って言ったって、別に2日や3日まったく出てこない訳じゃないんだろ? 飯だってあるんだし」
「それがまったく出てこないんですよ、2日や3日くらい、ザラで」
「えっ」
「ここです」
鵺野の驚きなぞ意に介さず、玉藻は目の前の扉を指し示した。

作品名:さとがえり 作家名:さねかずら