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さとがえり

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玉藻に手を引かれるまま、鵺野は青柳の家をあとにした。
まだ太陽さえも寝ぼけ眼の状態の、いかにも田舎らしい田園風景の広がるなか、家や畑が転々と存在するだけで人の気配はまるでない。
「なあ、もしかしたら怒ってるのか? おとーさんとばかり話しているから?」
「半分は。でもこうでもしないと此処で二人きりにはなれないでしょ」
しばらく散歩道のようなところを玉藻に引きずられるように歩いた。まばらに植栽された木の中で一際枝振りの立派な木の前で立ち止まり、そこでようやく向かい合う。
かすかな風が作る葉擦れの音が、木陰の涼しさをより強く感じさせる。
「もう、おとといの夜以来、キスだってしていない―」
「なんだ、そんなことで機嫌が悪かったんか?」
「…そんなコト扱いなんですね、あなたには。でも私にとっては」
「勿論、俺にとっても大事なコトだぞ? それは」
鵺野にしてはそれは何時になくはっきりとした意思表示だった。決して熱に浮かされたからではなく、ましてや酔っているからでなく、自身の意志、望みなのだと明確に誘うのは本当に珍しかった。それを証明するかのごとく踏み出される一歩。もともとの距離が短いから、たちまち衣服が擦れ合った。
触れて来いよという声さえ聞こえてきそうな鵺野の表情に、玉藻はゆっくりと手を差しのべた。鵺野の耳を撫で、はさみこむようにして頬に触れて指を滑らす。鵺野は少し照れながら―しかし自分からも手を伸ばして玉藻の頬に触れた。
「―逃げないんですね、今日は」
どうして? と尋ねる玉藻に、鵺野は「さあな、ただの気紛れかも」と小さく笑って答えた。
「…いいですね、私は結構好きですよ? そういう『気紛れ』」
どちらからともなく少しずつ顔を寄せ、そうしてためらいがちに唇を重ねていく。
花びらを食むように、みずみずしい果実を味わうように、そしておのれの血肉を分け与えるように、口付けを交わしつづけた。
さわさわと、ただ葉擦れの音だけがあたりを覆う。
二人と傍らの樹だけが、まるで空間が切り取られたかのようだ。
熱心な口付けでさすがに息が上がって来たのか、鵺野の足元がふらつくのを見て、玉藻は支えてやりながら小さく問うた。
「先生…このまま続けても、良いですか?」
「…ここでか?」
「そう。今、此処で…―嫌?」
「嫌…ってワケでもない、けど―」
「けど?」
「何だかさ、邪魔が入りそうな予感がするんだよな」
「予感ですか? でも貴方のはあんまり…―」
当てにはならないと言い切らないうちに、不意に玉藻は顔を上げた。その目線は今辿ってきた道の方へ向き、俄に険しい顔つきになっていく。
何事かと鵺野もそちらの方へ目をやると、そこには主の名を呼びながら跳んでくる若狐の姿があった。
「玉藻さま! 鵺野先生! 九尾さまがお呼びです、急いでお戻り下さい!」
「まだ予定の時間には間があるんじゃなかったっけ?」
そう玉藻へ問うた鵺野の言葉を耳にして、石蕗丸はひどく恐縮した顔で言う。
「申し訳ありません。九尾さまが、是非にと仰せられて」
悲しげに耳を精一杯に伏せているのを見ては、これ以上は何とも言えない。
なにせ妖狐の神である『金毛白面九尾狐』の命令なのだ。一介の若狐にどうこうできるはずもない。
「いちいち謝るな。謝るべきは呼びつけた九尾さま(とうにん)だろう」
「そんな! 玉藻さま、畏れ多いですよ!!」
たしなめる口調の若狐に、玉藻は苦々しく「冗談だ」と言い捨てる。
「さて―仕方ありませんね、では5分で仕度しましょう」
鵺野が頷くのを確認すると、玉藻は「失礼」と言うが早いか鵺野を担ぎ上げた。
「ちょっと待て…!」
鵺野が慌てた時には既に玉藻と共に空中を飛行していた。二、三度の跳躍の後には玉藻の実家へとたどり着く。徒歩では10分以上掛けた距離なのにものの1分も掛かっていない。
「おま……っ、ちょっと、は…っ、断れ…っ」
「言いましたよ、失礼って。大体時間ないんですから、黙って。急ぎますよ」
制限時間いっぱい、二人とも身繕いをしていく。とはいうものの、二人ともいつもの格好と変わらないのだが……。
ネクタイの具合を確かめながら、二人は石蕗丸の案内で九尾の屋敷へと赴く。
流石に、待たされることなく直ぐに面会が叶った。

「九尾さま、玉藻さまと鵺野さまがお越しにございます」
「通せ」

「九尾さま、天狐玉藻お召しにより罷り越してございます。先ずは拝領の御一尾につきまして厚く御礼を」
九尾に対して頭を垂れて玉藻が挨拶の辞を述べると、
「まあ、そのような堅苦しい挨拶は抜きにして、二人ともこちらへお出で」
近う近うと、雅やかな声が口上を遮った。
二人して座ったまま、招かれるままろくに顔も上げずに前へ前へと進む。
「面をお上げ」
間近に聞こえたその声に二人は顔を上げる。
そこには大奥の女房といった風な絢爛豪華な衣裳に身を包んだ、この世の者とも想われぬ美しい女性が座っていた。
艶やかに長くうねる黒髪、白い肌、紅い唇、涼しげな目元―。
「お久しゅうございます、九尾さま」
「ほんに、久しいの玉藻。身体は大事ないか?」
「は、御陰をもちまして」
「それは何より重畳―鵺野どの、まあ、そのように口を開いて、いかがなされた?」
「す、済みませんっびっくりして」
かつて玉藻の一件で対峙したときは原型…獣の姿であったので、鵺野は目の前にいる女性が本当に九尾その人なのか判断しかねていた。
「この前と様子がちごうておるから分からぬか? 鵺野どの」
「え? はい、まあ」
「過日はほんにすまなんだなぁ―改めて名乗ろう。私が金毛白面九尾狐」
「は、はい、俺いや私は鵺野鳴介です」
かちこちに緊張している鵺野に向かって、九尾は肘置きを引き寄せ、ずいと身を乗り出し親しげに声をかける。
「そんなに気を張らずとも…昨夜(ゆうべ)のように、普通にしておればよいのに」
「は? 昨夜??」
「この人に何をしたんですか!?」
鵺野がぼけるのと、玉藻が憤りの声を上げるのとが同時。
少しの沈黙の後、吹き出したのは九尾だった。
「あはははは……! まったく…面白すぎるぞ、お前達!」
見たか、今の見たか? と、侍女たちに手を振りつつ、最初の高貴な印象はどこへやら。まるで若い娘のように笑い転げた。
「九尾さま、笑っていないで説明して下さい!」
業を煮やした玉藻が、厳しい顔で訴える。
「ああ……はは、済まん、済まん。誤解を与えたようだが、まあこれを見れば得心が行くであろう」
長い袖を頭上へ振り上げた。一瞬、姿が見えなくなり、その後に現れた姿は、昨夜鵺野に謎の言葉を残して去った、そして今朝方の夢にも現れた少女だった。
「あ…! き、君は昨夜の…!!」
「ようやくお分かりかえ?」
来ていた着物も、外側の何枚かを除いて体に合わせて小さくなっているようだ。重たい着物を脱いで身軽になった九尾は、さっそく鵺野の元へと歩み寄る。
「き、九尾の狐…さまだったんで…すか」
「くみ、で良い。そちならば許すぞ」
鵺野の膝に手を置いて、上目遣いににっこり微笑む。
作品名:さとがえり 作家名:さねかずら