小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私についての小さな説

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 観察対象に美点があると、少しばかり羨ましいという思いが生まれる。世の中を見る限りこの感情は誰にでもあり得るだろう。己にないもので、且つ欲しいと思うものには誰だって惹かれる。そこでそれを手に入れるために努力を積む人間と、積まぬ人間がいる。ワタクシは明らかに後者だ。そもそも羨みはしても、欲するまでに心が至らない。いいなとは思う。他人の美点が自分にもあればとは思う。思う。けれどもそれはいつまで経っても「思う」から「欲しい」に変わらない。「欲しい」に変わる前に「諦め」になるのだ。他人の美点を見つけ、羨み、そして次の瞬間には己にはないと「諦める」。ワタクシはこんな話を他人と交わしたことがないので分からないのだが、羨み欲しがる前に諦めに至る人間というのはワタクシの他にいるのだろうか。居たとして、一体どのぐらいなのだろうか。或いはただの思い違いで、「いいな」と思う時点で欲しているのか。しかしワタクシは例えその欲したものを手に入れる手段を提示されたとしても手を伸ばさないだろう。羨ましいという感情は、手に入れたいという感情とはどこか別物なのだ。
 欲がないのか、と偶に思うことがある。しかしワタクシの最低限の生活にはパソコン周辺機器一式が必要不可欠なのであるから、物欲がないわけではないであろう。ならば何に対して欲がないのか。それはやはり、どう考えても「ワタクシ」に対してだとしか思えないのだ。他人の美点を羨ましいと思う。しかしその美点が欲しいかと言われれば、欲しいとは思わない。ワタクシにはいらない。必要ない。むしろワタクシにないからこそ、美点なのだとさえ思う。どんな美点も他人のものでなければ美しいと思えない。ワタクシのような人間が、美点を持ち合わせるはずがないからである。羨ましい、自分にも欲しい、ではない。羨ましい、自分にはないから、なのだ。
 他人の観察で美点を見つけることもあれば、欠点を見つけることもある。美点もそうであるが、欠点とは殊更、自分本位に他人を観察し見いだす部分だと思う。己の価値観から外れた点が他人の欠点なのだ。ワタクシからして欠点だと思うことは、譲り合うということを知らない心だとか、試す前に諦める心だとか、他人の言葉を己のいいように解釈する心とかである。それと細かいところで言えば、作法のなっていない食事風景は大嫌いである。視界にはいるだけでも不快なので、もし視界に入ってしまった場合はなるべく目を反らすことにしている。これだけは食事の質が落ちる気がして我慢ならない。ワタクシもテーブルマナーをきっちり心得ているわけではないから、大概なのかもしれないが、少なくとも箸や匙の扱い方や椀の持ち方、空いている手の置き所ぐらいは知っているつもりである。
 話が些かずれたので元に戻りたい。美醜の基準はそれを考える人の心であるが、ワタクシの思う主な欠点とは先に述べたようなものである。これらの点を他人が持っていれば欠点だと蔑むし、これらの点を余さず持っている己のことは尚更醜い人間であると思っている。譲り合う心ぐらいは、いくらかマシであろうか。それでも譲り合う場面の例がさっと浮かばないのだから、程度が知れる。次の諦めやすい心というのは全く駄目であろう。美点を語った段階でこの欠点がワタクシには根強くあることがよく分かる。諦めて、諦めて、諦め抜いた結果が今なのかもしれない。それを欠点であると自覚しているにも関わらず、欠点のままにするワタクシは本当に救いようがない。三つ目の言葉の変換も、恐らく無意識のうちに行っていることであろう。実に碌でもない欠点である。他人の言葉を、諫言を、忠告を、素直に受け止める心がないのだ。素直であれば万事善しという訳でもないが、己のいいようにばかり変換していては折角頂いたお小言も無駄になる。ワタクシはこの言い換えを行う人間が最も疎ましいと思うのであるが、残念なことにこの欠点を酷く持ち合わせている方が今は身近にいるので滅入っている。この心にはどうやらワタクシ以外の人間も困っているようなので、最も嫌われる欠点の一つではなかろうか。

 気晴らしにワタクシ事を表そうと思い書くに至ったのだが、書いているうちに更に鬱々としてきた気がする。今日は人混みに紛れ無駄な思考が始まってしまってから一向に気が晴れない。そういえばワタクシにとっては忌々しいこの思考するという行為も、偉い哲学者に言わせれば「人は考える葦である」らしい。どうせならワタクシもそのような立派な思考回路に至りたかったものだ。兎角、今回はもう綴るのも億劫なので文を打ち切ることとする。

 もしここまで読んでしまわれた方がいるならば、貴方に謝罪と感謝を。
作品名:私についての小さな説 作家名:清 浄