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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・ローズ

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 教師も生徒も神経質になっていて、できればこれ以上事件に巻き込まれたくない。しかし、たかが一日とは言え、姿を消した生徒を放って置くことでどんな事件が起こるのか、考えただけでも頭が痛くなる。
 僕にとってアスカが姿を消したという事実は受け入れがたいものだった。
 今日、放課後空けておいて言われたのに。そんな言葉を残したアスカがいなくなるはずがない。
 昨日まで一緒に過ごしてきた人が消えるということに、最初は実感がわかなかったけど、考えれば考えるほど僕の心は押しつぶされそうになる。
 僕の心で渦巻くものはアスカを消えたという悲しみではなく、アスカが消えたという恐怖だった。
 一日中アスカのことを考えていた僕は学校での出来事を覚えていない。授業で何をやったのか全く覚えていないし、誰と会ったり話したりしたかも覚えてない。唯一、覚えていることは報道陣に何を聞かれても話しをしてはいけないということだけ。
 アスカは何処へ行ってしまったんだろう?
 やっぱり今、学校で起きている失踪事件と関係があるんだろうか?
 生きているのか?
 死んでいるのか?
 考えれば考えるほど、不安を募る一方で、何がなんだかわからなくなってくる。
 そして、気づいたら僕は夕暮れの中をひとりで歩いていた。
 いつの間にか学校は終わってしまっていたらしい。
 いつもはアスカと一緒に帰ることが多い、この道。時にはひとりで帰ることもあったけど、それと今日は違う。
 そういえば、最近はひとりで帰ることが多かったような気がする。もしかしたら、あの〈クラブ・ダブルB〉とかいうのにアスカが参加していたせいかもしれない。
 重い足はいつに動かなくなり、僕はその場に立ち尽くしてしまった。
 もう、歩くことさえも嫌になった。
 頭が重く、クラクラと眩暈がする。気づけば辺りには知らない風景が広がっている。
 薔薇の香りが僕の鼻を衝く。そう思った瞬間、視界が霞み、ひと気のない道路に人影が突然現れた。
 道路の真ん中に?謎?って言葉が当てはまりすぎる人物がぽつんと立っている。その人物は黒いインバネスのような物を羽織り、腰よりも長い漆黒の髪を風に靡かせ、顔には白い仮面を付けていた。
 僕は浮世離れし過ぎた相手の格好を見て戸惑いを覚え、変質者かなにかだと最初は思った。
 けれど、そいつの髪が風に遊ばれるたびに、薔薇の香が辺りに振りまかれた。その香を嗅いでいるうちに、目の前に立っている奴がどんな奴だろうと、どうでもよくなってしまった。
 仮面の奥から声が響いた。
「私の名前はファントム・ローズ」
 ファントム・ローズの声は男か女わからない声をしていた。
 僕が口を開くことを忘れているとファントム・ローズは話を続けた。
「君の彼女である椎名アスカを一刻も早く見つけたまえ、さもなくば大変なことになる」
「あ、あ、あの……」
 言葉が浮かばなかった。聞きたいことは山ほどあるはずなのに、それが頭に浮かばない。
 わけもわからず僕はファントム・ローズを見つめるが、ファントム・ローズは何も語らなかった。
 そして、ファントム・ローズは一瞬にして姿を消した。それはまさに消失だった。
 ファントム・ローズが消えた場所から薔薇の花びらが風に舞いながら空に上がっていった。
 間の抜けた表情をして手を伸ばす格好をする僕はそのまま動けなかった。目の前で起きた出来事が理解できない。人が目の前で消失してしまうなんて信じられない。
「何だったんだ今の?」
 ようやく前に突き出した腕を下げた僕は息をついた。
 見上げた空は朱色に染まっている。
 僕が見た光景は幻影だったのか、――いや、本当に幻だったのかもしれない。
 薔薇の匂いが微かに残っている。
 椎名アスカを探すこと、それが今の僕にできること。手を拱いて不安に駆られるのは嫌だ。
 何が何でもアスカを僕の手で見つけなくていけない、そういう気がした。