君のお守り
甲高い笛が鳴る。
ここで、私たち3年間の決着が着く。
『 君のお守り 』
彼女は、高校三年間の中で今年が一番ツイテいない年だと、今日確信した。
来週から、始まるバスケの地区予選からはじまる長い大会。
高校三年間の締めくくりなのに、彼女はその大会には出場出来ない。
それ以上に、彼女にとってこの大会は意味を持っていた。
(あぁ、優勝したら告白するつもりだったのになぁ)
今いる空間の左半分の中から彼を捜す。
彼は、容易に目に留まった。
昨日の夕方、事故にあった。
自転車で自宅に帰る通学路。
猫が車に轢かれそうになったので、とっさに自転車ごとぶつかった。
猫は、無事だった。
でも、彼女の右腕は無事じゃ無かった。
(普通さぁ、こういう怪我って長くないよね)
右腕に巻かれた白い包帯が、やけに恨めしく感じる。
「おい、大丈夫か?」
笛がなって、左半分で練習していた男子バスケ部の彼が彼女に声を掛ける。
「大丈夫だったら、こんなところにいない」
「腕の事じゃねぇよ」
「じゃぁ何?」
「それは・・・」
「3、2、1、ブー。終了。」
彼女は一度も、彼の方を振り向くことなく体育館の右半分を見つめる。
彼はその横に立って、そのまま体を壁に預けた。
「なぁ、」
「ん?」
「お前、応援来るよな?」
「さぁ?」
「“さぁ?”って、お前・・・・・」
彼はしゃがんで、椅子に座っている彼女と目線を合わせる。
やっと、彼女の瞳は彼の顔を捕らえた。
「行くに決まってるでしょ。」
「良かった。よし!じゃぁ、これやる。」
「ゴミならいらないわよ」
「お前なぁ・・・・。“お守り”だよ。お守り!」
彼の、彼女とは比べ物にならないくらい大きな手のひらから出てきた“お守り”は、四つ葉のクローバーだった。
「幸せが、お前に来るように・・・。」
「・・・・ありがとう。」
空気が動いて、彼が立ち上がる。
そして、軽く柔軟をすると、彼女に背を向け高い天上を仰いだ。
「でさ、俺達。優勝すっからな。」
「そうね。アベック優勝ね。約束。」
そして、頭の上に置いていた手を腰まで下ろす。
そのまま肩に人工の光を浴び、振り返りざまに言った。
「それでさぁ。優勝したら、お前に告白するから。」
そういって、軽く微笑むと彼は、チームに戻っていった。
彼女は目を丸くして、驚いたままだった。
暫くして、いつもの調子を取り戻すと、嬉しそうに微笑んだ。
(馬鹿。今予告したら、意味ないじゃん。)
それから、3ヶ月後。
幸せが同時に三つやってきたのは、また別のお話。
『四つ葉を君に届けます。』
The End.....?