反撃の巨人
児童虐待の容疑で逮捕された青年、吉祥寺典平(仮名)は尋問する 警官に叫んだ。
黒のスウェットに安物のアクセサリーをつけ、だら しなく椅子により掛かっている。
「しかし、同棲中の女性の証言もあるし、連れ子さんの体にも痣が あるんだがな」
「はァ? アレはしつけ。んなもん家庭の事情だろうよ」
にやにやと笑う。反省の色はない。調書をとり終えた警官は穏やかに言った。
「…わかりました。あなたに必要なのは、『教育』のようですね」
「ああ?」
「こういう事件やトラブルが多いせいか、最近、それに適応した施設や、教育する
人物が"発生"しましてね。問題があればそちらにお願いしてるんですよ。警察も暇
じゃないんでね」
* * * * *
「な、なんだこりゃ? テーブルも、テレビも、バカでけぇ…」
吉祥寺は刑務所ではなく、ふたまわりも大きな家財のある部屋に通された。与え
られた服装も囚人服ではなく、名札のついた半袖シャツに半ズボンである。
「おい、なんだよコレ。っざけんなよ! 出せ…」
大声を出していると、振動とともに向かいの部屋…台所らしい…から、女性が現れ
た。
「げえッ!?」
その姿はよく見かける母親のものだった。
軽くパーマあてた髪にエプロン姿。ただし、それはゆうに5メートルは越える威容で
あった。
「おと な しく しな さあい」
響くような重い声。
過去に巨人症と言われていた病気や単なる長身、ではない。明らかな種の個性、特
徴としてふたまわり大きいのだ。
「な! なんっだあ! 化けッ」
風圧とともに座布団のような平手が飛んでくる。男は部屋の端まで吹っ飛ばされた。
「がはッ! た、た、助けて」
巨人の平手打ちが続く。全身が砕かれる痛みに悲鳴をあげ逃げ惑う吉祥寺。
その時、玄関のドアが開いた。
「ああ、開けてくれ! 俺ぁ悪い事なんかしてねえ!」
女の巨人は怯えながら台所へ引き上げていった。吉祥寺は巨大なドアを思い切り開
ける。
「あ・・・・・」
そこには、6メートルはある巨人が憤怒の形相で立っていた。
黒のスウェットに安物のアクセサリーをつけて、拳を握りしめ。
重い声で呟く。
「これは しつけ だ」
・・・終。