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学園小話3

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 落ちてくる髪が肌をくすぐる。邪魔だと払っても、何度も何度も繰り返される。
 まるでこの男の気質そのものだと寝返りを打つ。そう、しつこくて、人の話を聞きもしない。
 それを言えば、あきれたと言う口調で「お前もそうだろう」と返されるが。

「おい」
 愛撫の途中でそっぽを向いたのだ。不機嫌な声が降ってくる。
「髪、結わいなよ」
 くすぐったいんだと解いて頭上に放り出していた髪紐を、伸びて手に取る。ため息と共にそれを取り上げて、滝夜叉丸は手早く髪を結わえる。
「我侭な奴」
 皮肉る言葉を、頭を抱き寄せてうるさいとばかりに唇を吸う。我侭という代名詞は、自分より間違いなくこの男のほうに相応しい。それを以前口にしたことがあるが、同学年の反応は一様にして悪かった。曰く、お前のほうが自分勝手だろう、と。
 ただそんな自分たちを、年長者はみんな似たり寄ったりだと言って笑う。だから実際のところはよくわからない。
 それでもひとつ判るのは、ほかのことを考えているのは案外伝わるということ。上唇を噛んでこっちを見ろと睨みつける。それは滝夜叉丸の癖みたいなものであり、彼らしいアピール。おかげで身体のあちこちに噛み傷が絶えない。

 ほら、と口を薄く開けて舌を伸ばす。すぐに絡み付いてくる舌先は、持ち主とよく似ている。性急で、駆け引きも何もない。
 わざと逃げて口蓋を擽れば、それはイヤだと首を上げようとする。それを抱え込んだ両手で封じ込めると、宥めるようにまた舌を舐め上げる。
 滝夜叉丸の唾液が絡まる舌から滴り落ちて、唇の端から頬、耳の裏へと伝っていく。それを薄目で見ているのに、気にした風もなくもっとと貪る。口付けを嫌がっていた最初の頃が嘘に思える。
 片膝を立てれば、跨っている彼の股間に膝が触れる。一瞬だけ舌の動きが止まるのは、隠しはきれない期待のせい。ゆるりと足を揺らせば、はしたなく股間をこすりつけて来る。
「助平」
 片手で顎を押し上げて、濡れた顔をもう一方の手で拭う。頬が熱い。見下ろしてくる滝夜叉丸の頬も、きっと同じだろう。
「どっちが」
 また降ってくる唇は今度は拭った頬に触れ、ぬるい舌が舐めていく。これを小動物にたとえる気はさらさらないけれど、大きな猫がじゃれているようでくすぐったい。
 顎の線をなぞり、早くと先をねだるように耳朶を食む。
 仕方ないなと腕を上げ、両手で頭上にあるはずの軟膏を探す。まるで万歳のような姿に横着をするなと鼻が鳴らされ、大型猫が身体を起こす。
「……ほら」
 貝の蓋を取って差し出される軟膏。
「自分でやる?」
 それを見て言ってやれば、酷く嫌そうな顔をされる。それでもすぐに自分の指で掬い上げると、膝立ちのまま後ろ手で菊座に触れる。
 目を瞑り、眉間に少しだけ皺を寄せる。異物感に、口を少しだけ開いて息を吐く。慣れたものだと見上げるその面は、ひとつのところに留まらずゆらゆらと揺れる。
 閨でしか見せない、滝夜叉丸のもうひとつの顔。ただなにか物足りない。
 腕を伸ばし頬に触れれば、なんだと問うように薄目をあける。でもすぐに吐息と共に視線はどこかへと飛ぶ。
 ひとつになろうとしているのに、交わらない距離。ゆるりと頬を撫で続けていれば、滝夜叉丸の真っ直ぐに伸びた背が曲がっていく。後頭に手を回して抱き寄せようとした指に触れる束に、ああ、と思い出す。
 紐解けば、また薄目でなんだと問われる。
「やっぱりこっちのほうがいい」
 白い肩を隠すように流れる黒い髪。それが身体が揺れるたびに波を打つ。
「…………お前な」
 赤い唇から零れるのは、吐息ではなくため息。
 気まぐれは身上みたいなものだから、そのまま頭を抱き寄せる。肌を擽る髪は苛立ちを生むけれど、別のものも与えてくれる。こういうときは、そう。
 唇を啄ばんで、身体を返す。褥に散らばる髪を見下ろして、これもいいものだと小さく笑う。
 もう一度口を吸い舌を絡め、ついでに足も絡める。その太腿を撫で、すでに解れた菊座に指を埋め込めば、ようやく滝夜叉丸が甘い声を漏らした。



作品名:学園小話3 作家名:架白ぐら