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 それは特別な色だった。
 少なくとも、彼や、このゲームの参加者にとっては何よりも特別な色だった。

 ―――赤。

 今、彼の目の前を染め上げている色。

 彼の隣では仔猫が鳴いていた。野良の仔猫。
 激しくなる耳鳴りに、ミィミィという細い声が、さっきより遠い。

「知ってる?」

 その声だけが彼を支配する。
 幼い、冷たい、子供の声。

「――を、知ってる?」

 何、と問おうとした声がひどくかすれていたのを覚えている。
 子供の声だけがさらにはっきりと響いたのも。

「――だよ。知ってるんでしょう?」

 繰り返すことに苛立ったような色を含んで。幼い残酷な響きが下しているのは、ゲームオーバー。死刑宣告だ。

 分かっている。
 分かっていながらも、その時彼はこう答えるしかなかったのだ。

 ……知っていた。

 子供のふっくらとした無邪気な唇が、笑んだのが見えたような気がした。


 それからの記憶は、ない。
 赤一色に塗りつぶされて。
 そしてこれからの記憶ももうなくなるのだろう。諦観の気持ちで目を閉じる。瞼の裏に広がっているのも赤一色。

「命の色を、知ってる?」

 あか、だよ。

 唇を微かに動かしたのを最後に、仔猫の鳴き声が止んだ。

 残ったのは冷えて蹲る黒い塊。そしておびただしい赤。
 血に染まったまま笑んだ唇の、名残。
作品名: 作家名:睦月真