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空気屋

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東京や大阪には『水専門店』があるという。店に何種類もの水を置いていて、そこにはなんと『水ソムリエ』なるものもいるらしい。
 私はそれを知ってビックリした。なんだか時代はそこまで来てしまったんだなあという感じである。
 ただ、私たちもコンビニなどで普通に水を買ったりする。昔は水にお金を出すなんて考えられなかった。それほど普通の水、つまり水道水に危機感を感じているということである。
 では当然のことながらそこから思考は進んでいく。『当たり前』のものが商品になる。そう考えていくと、水の次に商品になる当たり前のものとは何か。
 それは『空気』である。
 空気はすでに空気清浄機がある。それに物足りなくなった日本人はさらに空気を商品化させようとするかもしれない。
 今回起こった東日本大震災では原発が問題になっている。皆、空気に危機感を抱いている。またぜんそくの子供が住む場所を変えたら、すっぱり治ってしまったという話も知っている。
 空気のさらなる商品化。今の日本人の発想では可能性がないわけではない。でも空気が商品になるってどういうこと?とお思いの方々。それをひとつずつ考えていってみよう。
 まず今、私の隣に『○○山の天然水』というペットボトル入りの水がある。こんな風に空気だって『○○山の天然空気』として販売されるかもしれない。天然空気とは、都会の廃棄物に汚染されてない空気のことである。
 容器はそうだな。何か袋みたいなものに、パンパンに○○山の空気が入っていて吸入口からそれを吸えるような仕組みだ。
「ああ、やっぱり天然空気はおいしいわね」
 なんて、流行に敏感な若い人なんかが言うかもしれない。
 そうなると当然、水と同じように空気の輸入も考えられる。エビアンよろしく、フランスのどこどこ地方の空気だとか、イタリアの空気だとかが販売されるようになる。そうすると
「やっぱりヨーロッパの空気は違うわね」
 なんて、空気の香りが分かるようになってくるかもしれない。実際に山へ行った時に空気が違うと感じたことがある人は多いはずだ。だからここは納得してもらえると思う。
そうなると自然に何種類もの空気を揃えた『空気専門店』が登場し、『空気ソムリエ』なるものも現れるかもしれない。
「こちらはフランスのどこどこ地方の空気でございまして、この空気には日本の空気には含まれていない何々という成分が含まれておりまして、香りは日本に比べてすがすがしく……」
 なんて講釈をたれるかもしれない。
 もしくは空気専門店には各個室があり、そこへ通された客はフランスやイタリアの空気を目一杯吸うことが出来るようになるかもしれないのだ。
 ああ、恐ろしい。時代はそこまで来ようとしているのだ。
 しかし、これを読んだ皆さんの中には、「空気の輸入?」だとか、「空気専門店?」だとか、あくまで架空の話としてこれを読んでいるだけで、「空気清浄機があるからもうそれでいいじゃないか」という人もいるかもしれない。
 でもここに恐るべき事実がある。知っているだろうか。
すでにこの日本には、疲れた体に酸素を吸入させる『酸素屋』や、好きな栄養を体に打てる『点滴屋』が存在するということを。
 日本はすでに迷走し始めている。『空気屋』が当たり前になった時、日本は一体どこへ行こうとしているのか、もう一度考えていただきたい。
作品名:空気屋 作家名:ひまわり