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黒猫

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 村で一つしかない教会を預かるのは「悪魔」という名の黒猫だった。
 黒猫にその名を付けたのは、昔ここにいた神父で、彼がいなくなってからは黒猫が教会を守っていた。といっても神父なしではミサも開けず、教会はもっぱら村の集会所としてのみ使われていた。
 黒猫はそれほど人当たりがいいわけでも面倒見がいいわけでもなかったが、神父の残したすべての本を読んでいるだけあってたくさんのことを知っており頭の回転も速かったから、なにかと村のものに相談事を持ち込まれていた。
 黒猫の友達は村の入り口に立っているガス燈で、ガス燈の仕事のない昼間、日のあたる中庭でチェス盤を挟むのが二人の楽しみだった。神父の残したチェス盤はよく使い込まれて駒は丸みを帯び、ポーンとルークが一つずつ欠けていた。
最近二人が楽しんでいるのはクィーンを使ったゲームだ。
それを黒猫が考え付いた当初はクィーンを盤上に配置するだけの簡単なゲームだったが、黒猫とガス燈が思い付く端からルールを増やしていくのでゲームは日に日に複雑になり、毎日そばで眺めているカボチャにも二人がどんなルールに従ってクィーンを動かしているのかさっぱり分からなかった。
 ただ勝敗だけは誰が見ても明らかにわかった。
 村の入り口に立ったガス燈がまるで舌打ちするように明滅を繰り返す夜はつまり、その日、彼は黒猫に負けたということなのだ。
作品名:黒猫 作家名:森林