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柘榴

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 柘榴の実が、紅く割れていた。空は橙、鳥が一羽二羽続けて飛んでいく。

 少年は、鞄に金槌を潜ませていた。両手で、腹の前に抱える。重い。他には何も入っていないというのに、重い。少年は、小さく笑った。こんなに重いのに、教科書よりもずっと軽い。

 命に、重さはあると思う。

 それは生きている人間と死体の重さの差とかではなくて、もっと人によって違うのだ。

 (僕の重さは 僕の命は、きっとこの鞄と同じくらいだ。)

 命の価値や値段は知らない。少年には、興味も無い。それとは全く別の次元で、命の重さには確かな基準がある。そう思う。雲が、影のまま流れていく。蝸牛よりも遅く見えるのに、本当はどれだけ早いのだろう。道に転がっていた名前も知らない木の実を踏み潰した。

 命の重さは、死ぬ方法で決まる。

 少年は、そう信じていた。

 自動車事故なら、車の重さ。病気ならば、検査した機器の。首吊り自殺なら、ロープと自身の重さだし、入水自殺なら水の重さだ。
 少年は、鞄を抱えなおした。空っぽの鞄の中で、金槌は他にぶつかることも無く動く。

―――僕の命は、これ。

 ぎゅう、強く力をこめた。自分の命の重さを、少年は自分で決めた。価値でも値段でもなく、グラムで表示されるただの重さ。軽いというほどではなく、けれど教科書の詰まった鞄より軽い。これくらいがよかった。


 少年は、真っ直ぐ進む。近くに、公園も無いただの山がある。誰かの私有地かもしれない。少年は知らない。
 その山には柘榴の木があって、昔妹と食べに来た。色々な木があって、動物もいた。誰が所有していたとして、ここは二人の山だった。

 橙色の空が、紺を帯びる。履いていたスニーカーに、泥が跳ねた。少年は立ち止まった。
 柘榴の木があった。
 少年は近付かない。(一、二、)数えて、三本目。柘榴の木が良く見えるそこが、少年と妹、二人の秘密基地だった。少年はしゃがんで、金槌を取り出す。

 どれだけ自分を強く殴れるのか。自信はなかった。けれど、死ねると思っていた。空は藍色に飲まれていく。少年は金槌を大きく振りかぶった。


 柘榴の実が、 紅く割れていた。



作品名:柘榴 作家名:しみこ