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かかし

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 村の外れにすんでいるかかしの影は緑色をしている。
 夜の帳が下り、すべてが闇に包まれたときでも、かかしの周りの闇は深い緑色だ。
 そのせいかどうかは知らないが、かかしはめったに人前に姿を見せなかった。村人が見かけるかかしはたいてい村境の小高い丘のてっぺんに座り込んで、コーンパイプを吹かしていた。かかしのパイプの煙は薄い紫色を帯びて、強い風に吹かれて村に届く。それは干し草とラヴェンダーのまざりあったような不思議な香りがして、たばこ屋に出入りしている様子がないことから、あれはかかしが自分で作ったたばこなのだろうと村人は話した。たばこ屋の主人はその不思議な香りを砂糖漬けのスミレの花の香りではないかと考え、いつかかかしにその配合を聞きたいと思っていたが、いかんせんかかしは誰とも口をきかない。村の口さがないものたちは、きっと彼を作った農夫がかかしの顔に口を描き忘れたのだといっては笑った。
 村の中で彼の声を聞いたものがいるとすれば、教会の「悪魔」という名の黒猫だった。しかし黒猫は噂話を好まないたちだったから、かかしについての話が出ると黄色い目をゆっくりと瞬かせたあと
「パイプを吹かすんだから、口はあるだろうよ」
とだけ言った。
 かかしは夏でも冬でもくすんだ紫の上着をなびかせて丘に登った。鳶色のハンチング帽は彼の頭にしっかり縫い付けられていた。
作品名:かかし 作家名:森林