一緒に遊ぼう
子供は驚いて絵本で顔を隠した。するとガラス越しにもはっきり聞き取れる程の大声。
「ねぇ、一緒に遊ぼうよー!」
絵本の陰からこっそり覗いて見れば口元に両手を当てている姿が見えた。胸元にに大きな赤のリボンが可愛らしい白いTシャツにデニムのショートパンツ。外遊びが好きなのだろう、肌は健康的に日焼けしていた。この距離では表情は伺えないがきっと笑顔なのだろうと子供は思った。あの子は昨日も、一昨日も、元気な声で声をかけてきたから。
もう一度女の子が大声で「遊ぼう!」と繰り返したところで子供は絵本をそっと降ろした。ちょっとためらって、そして片手を上げる。顔の横まで上げた手を小さく振れば、びっくりしたように女の子がぴょんと跳ねた。そして今までよりも大きく、身体全体を動かすようにして手を振り返してきた。
「早く降りておいでよ! あっちで遊ぼう!」一際大きな声をかけられ、子供は反射的に息を大きくすった。
「今行くよ!」
声を張ってから自分の声の大きさに驚いた。危うく絵本を落としそうにすらなった。目を見開いて固まっていれば、「早く、早く!」と急かす声が聞こえた。
子供は椅子から飛び降りて、絵本を座面にそっとおいた。それから踵を返して窓とは反対の扉に向かった。ちょっと高い位置にあるドアノブに背伸びして手をかける。冷たいノブを回して押し開けて、振り返ることなく駆けだした。
【開けっ放しの扉】