魔本物語
その声は酷く慌てたようすで、その声を聴いた人々も慌てた表情をしている。きっと大切な物が盗まれたのだろう。だが、セイには〈ライラの写本〉と聞いても、それがなんなのかわからない。
「〈ライラの写本〉って何?」
「魔導書のことだよ。ライラっていうのは別名〈神の詩〉って言ってね、レイラ・アイラ・マイラ、いろんな種類の魔法があるんだけど、元を正せば全部ライラの派生に過ぎないんだよねぇ。〈ライラの写本〉はそのライラが書かれてるんだけど、普通の人じゃ表紙を開くことすらできなんだよ。ライラについて説明してると夜が明けちゃうから、機会があるたびにちょっとずつ説明していくね」
町中が騒がしくなりはじめ、いろんなところから声が聞こえてくる。
「魔導書を盗んだのは怪盗ジャンクらしいぞ!」
「あの荒くれ者の怪盗ジャンクか!?」
「ジャンクって言ったら変装の名人らしいじゃないか。もしかしたら、この中にいるかもしれないぞ!」
町中に声が飛び交う中、自然と人々の視線がセイとファティマに注がれていた。嫌な予感がする。
そして、セイたちはあっという間に取り押さえられてしまった。見かけない顔っていうことが災いしてしまったらしい。
「僕は怪盗なんかじゃないよ!」
セイとファティマは腕を強く掴まれ、セイは持っていた魔導書まで取り上げられてしまった。
本を取り上げた男の花人が表紙を開けようとしたが開かない。そして、セイの顔を不信そうに見つめた。
「まさか、この本は魔導書なのか? いや、こんな子供たちが魔導書を持っているはずがない。どこで盗んだんだ!」
「それは僕の魔導書です、返してください!」
「うるさい黙れ! こいつらを早く牢屋の中に入れてしまえ!」
牢屋と聞いてセイは脅えた。セイたちはなにも悪いことをしていないのに、どうして……?
セイたちは大勢の花人たちに捕まえられ、引きずられるようにしてこの場を後にした。
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)