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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔本物語

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「ファティマ様は生涯をかけて一冊の魔導書を書き綴り続けました。その書の内容は世界の全てを記すこと。ファティマ様は二千年以上もの永い時を生き、世界中を旅し、多くを書に綴りましたが、それでも全てを記すことはできませんでした。そして、ファティマ様はある日突然この地に戻り、人々を〈大きな神〉から守るために封じ込めたのです」
 セイもアズィーザも頭の上にはてなマークが飛んでしまった。
 口を開いて説明を続けるようすのないアリスにアズィーザが質問をした。
「それでおしまいかい? 説明がだいぶ省かれてたように思ったけど。なんでファティマは世界全部を書に書き綴ろうとして、なんで人々を封じ込める必要があったんだい?」
「わたくしが知っているのは今説明したものだけです。ファティマ様は多くを語りませんでした。ただ、わたくしとこの部屋の時間だけを止めず、新たな主人を待つようにとだけ仰られました」
 つまり、アリスに説明を求めてもよい答えは返って来ないということだ。だが、次の一言が状況を発展させる。
「そして、ファティマ様は必要最低限のことは〈ファティマの書〉に記したと仰っておりました。つまり、そこにご主人様の求める答えが書かれているのです」
 だが、〈ファティマの書〉は半分が焼け焦げ、とても読める状態ではなかった。
 セイの落胆は大きい。
「魔導書は見てのとおり、破損してもう読むことはできなんです」
 謎を解く鍵であった魔導書は使い物にならない。しかし、アリスはニッコリと微笑んだ。
「ご主人様、心配なさらずに肩お上げください。その魔導書からは魔導が感じられます。そう、その魔導書はまだ生きております」
 確かに魔導書はまだ微かだが力を持ち、翻訳機としての力も健在だった。しかし、ページを読むことができないのは確かで、それがどうにかなるとでもいうのだろうか?
「この魔導書が生きてる?」
 セイが不思議な顔をして尋ねると、アリスはコクリと小さく頷いた。
「文字として失われても、知識が死んだわけではございません。魔導書に宿る精霊が魔導書の知識を共有しているのは、文字で表されているからではございません。魔導書そのものが知識を記憶しているからです。しかし、今その魔導書は力を失いつつあります」
「どうすればいいんですか?」
「ご主人様の中に宿らせればよいのです。これはご主人様の知識が増えるという意味ではなく、ご主人様の中に別の〈存在〉が住まうスペースをつくるということです」
「意味がわからないんですけど?」
「なさればわかります。では――」
 アリスは〈ファティマの書〉とセイの身体に触れると、静かに何かを呟いた。すると、セイの身体が輝きだしたではないか!?
 そして、〈ファティマの書〉は煌く粉になってセイの口に流れ込んで行ったのだった。
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)