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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔本物語

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 二人は身体に塗れた砂をバサバサと叩き落として、なんとなく辺りを歩きはじめた。
 民家らしき石造りの四角い家に入った二人は、その中であることに気が付き、疑問を覚えた。
 テーブルの上には食べかけの食事が置いてあり、台所に向かったアズィーザはそこで奇妙の物を見た。火にかけられた鍋があったのだ。その鍋の中はスープで満たされていていた。
 台所にやって来たセイがアズィーザに声をかけた。
「誰か住んでるんですかね?」
「さあねえ、でも、不思議なことあるんだよ」
「不思議なこと?」
「そうさ、この火をよく見てごらん」
 そう言われてセイは鍋の下に木がくべられ燃えている火をよく見た。その火は燃えていなかった。火が揺らめいていないのだ。
 驚いた顔をしたセイは火の近くに手をかざしてみた。熱くない。そこで思い切って火に触れて見た。すると全く熱くなく、火はカチカチに固まっていた。
「そんなまさか、火が固まるなんて聞いたことない」
「そのまさかだろうさ。その中のスープも触ってみな、カチカチだから」
 セイは言われるままに鍋の中のスープに触った。アズィーザの言うとおりカチカチに固まっていた。見た目はどう見ても液体なのにだ。
「どういうことですか?」
「あたしの考えが正しければだけど、時間が止まってるんだろうね。この部屋にある物は全部時間が止まっちまって、動かすことができない。そんなところじゃないかい」
「もしかして都市全体もでしょうか?」
「あり得るねえ。じゃあ、他の場所も調べて見るかい?」
「そうしましょう」
 この後、セイとアズィーザは都市中を調べて回った。そして、結果は同じだった。物が全く動いていないし、動かせない。しかも、部屋の中はどこもついさっきまで人々が生活していたような感じが見受けられた。
 そう、ここは都市中の人々が神隠しに遭い、都市の時間が止まってしまったような場所だった。
 街の路地を歩きながらセイは横にいるアズィーザに顔を向けた。
「なんだかすごいとこに来ちゃいましたね」
「きっとこの都市にはすごい秘密と一緒に、想像も及ばないようなお宝があるに違いないねえ」
「宝があるかは別として、人々が都市から消えた理由にはなにか大きな秘密がありそうですね」
 歩く二人の視線は斜め上に向けれていた。二人が考えていることは同じだった。
 前方には天井いっぱいまで伸びる塔が聳え立っていた。そこになにかが必ずある。二人は確信して、示し合わせることもなく、二人の足はその塔へ運ばれていた。
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)