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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔本物語

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 ゼークの放ったサイクロンが渦を巻きながらエムに襲い掛かり、その背後からは闇の鎌が迫っていた。エムは逃げ場を失い、地面を蹴り上げ舞い上がった。しかし、エムの顔が歪む。
 舞い上がったエムのその上にファティマはいた。そう、?もうひとり?のファティマが――。
「油断したなエム!」
 ファティマの言葉とともにエムの身体は槍によって射抜かれていた。
 宙に浮きながらファティマは槍を抜き取りエムから素早く離れた。
 ゼークの放っていたサイクロンが地面に落ちる途中だったエムを巻き込み、クラウディアの放った闇の鎌がエムの身体を切り裂く。鎌はサイクロンによって渦巻き、その中心にいるエムの身体は跡形もないまでに切り裂かれていった。
 サイクロンの中で煌く粉が舞った。それはエムの破片であった。
 やがてサイクロンは治まり、その場には何も残っていなかった。
「やったの?」
 クラウディアがそう呟いてサイクロンがあった場所に走り寄った。それを見てファティマが叫んだ。
「まだだ! その場を離れろ!」
「えっ……!?」
 クラウディアが目を見開き、セイは顔を手で覆い隠した。
「妾はまだ生きておるわ」
 槍を伝って紅い雫がエムの手を鮮やかに染め上げた。
 息を呑むクラウディア。その身体はロンギヌスの槍によって射抜かれていた。深く深く射抜かれていた――深く。
 槍を抜かれたクラウディアが地面に堕ちる。セイの目に映ったその光景は音もなくスローモーションに見えた。――信じられない。
 セイが手に持った魔導書のページが激しく捲り上がる。そして、燦然たる輝きがセイの身体を包み込み、魔力のこもった風が当たりに吹き荒れる。力が解放されようとしている。
 エムは淡く輝く月のように微笑んでいた。
 ゼークは恐怖に身震いした。
 そして、ファティマの目が見開かれる。
 魔導書と精神を共有するファティマは、なにが起ころうとしているのかを悟ったのだ。
「セイ、その呪文は唱えていけない!」
 ファティマの声はセイに届かない。セイの精神はすでにこの場になかった。今の彼は無意識の中に動いていた。
 セイの口元が微かに動いた刹那、世界は輝きに包まれた。
「セ――」
 誰かが叫んだ。しかし、眩い光に全ては呑み込まれていた。音すら呑まれた。
 そして、全ては白になった。

 闇の中から目を覚ました。
 セイが目を開けると、そこはふかふかのベッドの上だった。
「僕は……?」
 ふと横を見ると、椅子の上に一冊の魔導書が置かれていた。下半分が焼け焦げ消失してしまっている魔導書。それは〈ファティマの書〉だった。
 セイは慌てて魔導書を手に取った。
「どうして……?」
 わからなかった。なぜ、魔導書が焼け焦げてしまっているのか。そう、ファティマは?
 部屋に誰かが入って来たのを感じてセイが叫ぶ。
「ファティマ!」
 ――違った。
「俺だ、すまんなファティマじゃなくて」
 部屋に入って来たのはウィンディだった。そして、その後ろにはクラウディアもいた。
 クラウディアの顔を見てセイはほっと胸を撫で下ろした。
「よかった、生きてたんだ」
「わたしのこと勝手に殺さないでよ。まあ、ゼークがいなかったら死んでたけど。彼女のお陰で一命を取り止めたのよ」
「あの、ファティマは?」
 セイが尋ねるとクラウディアとウィンディは顔を見合わせて黙り込んだ。その沈黙はセイの心に不安と重圧感を与えた。
「ファティマはどうしたんですか!?」
 ウィンディはセイと視線を合わさず、クラウディアが静かな口調で答えた。
「いなかったの。辺りが突然光に包まれて、世界に色が戻ったと思ったら、エムもファティマもいなかったのよ」
「いないってどういうことですか? 魔導書はここにあるのにファティマがなんでいないんですか!?」
 焼け焦げた魔導書を見てセイははっとした。表紙に手をかけて開こうとしても開かない。セイは愕然とした。
 クラウディアが言葉をセイに乗せた。
「その魔導書の力は明らかに弱まっているわ。精霊の宿る魔導書は強大な力を持っているのよ。その魔導書には、もうその力はない」
 ――ファティマはいない。
 それが事実だった。
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)