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会いに

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秋と付き合い初めて1年半。
 デートも行ったりしたけど、クールな秋の表情に未だに不安になるときがある。
 いつも私ばっかり好きな気がしてた。
 だから今度は私は折れてやんないの。

「へぇ~、でもう自分から1週間連絡取ってないんだ」
 友達のあゆが言った。
 大学のカフェテリアにあゆと私はいた。
「うん」
 私は余裕なふりしてコーヒーを一口飲んだ。
 実は全然余裕じゃない。
「…今日誕生日なの」
 ストローで氷を掻き混ぜていたあゆの手が止まった。 
「…誰の?」
「秋の」
「はぁ?連絡取りなよ、さすがに」
 ありえない、といった表情であゆは私を見る。
 私だってありえないと思う。
「でもだって、」
「秋君だって寂しいって!」
「寂しいなんて聞いたことないもん!」
 私はテーブルに置いた手を強く握った。
「秋からメールきたことだってほとんどないし、電話だって私がするし、秋の家行くのも、どこか行くのも私から誘うし!」
「…でもちゃんとデート連れてってくれるし、家行ったら入れてくれるんでしょ?」
 あゆはため息混じりに言った。
「ちゃんと好かれてんでしょ」
 私はうつむくしかなかった。
 確かに好かれてるとは思う。
 でももっと、好かれてる実感が欲しと思うの。
 私が好きな分と同じくらい。
 それは、欲張りなのかな……。
「…でも!」
 あゆが私の携帯電話を指差した。
 携帯電話はメールの着信を知らす青いランプをチカチカさせていた。あゆは少し笑って言った。
「青色は秋君って言ってなかったっけ?」
 そうだ、その通り。
 この1年半ほとんど見たことのない青いランプ。
 私は慌てて新着メールを開いた。

[会いたい]

 たった4文字だけど、そこにあるのは秋の気持ちだった。
 いつもクールで何も言ってくれない、秋の。
「ごめんあゆ、行くね!」
「おー、早く行きな!」
 私は空になりかけていたコーヒーを一気に飲み干して、走り出した。

『ねー、今日秋の家行っていい?』
『あー、まあいいんじゃね?』
 無口な秋と、笑顔の私。2人で一緒に歩いたこの道を、私は必死に走っていた。

 私は秋の部屋のドアの前に立っていた。
 マンションの1階でオートロックを開けてもらった時の秋の声は、いつもと同じで何を考えてるのかわからなかった。
 勢いで走ってきたけど…。
 私は顔を横に振って、気持ちを切り替えてドアをノックしようとした。
 その時ドアが開いて、秋が顔を出した。
「何してんの」
「や、何って…」
 私はうろたえて言葉をつまらせた。秋はドアを開けたまま立っていた。少しの間、沈黙が流れた。
 しばらくすると秋が口を開いた
「…今日何の日か知ってる?」
 私は秋の顔を見た。秋は顔をさげていて、その表情は見えない。
「…秋の誕生日」
 私が呟くと、秋はドアを支えてない方の手で私を抱き寄せた。そして秋は私の肩に頭を置いた。
「…連絡来ねーの、けっこう辛い、」
「ごめん…」
 秋の声久々に聞いた。
 秋に久々に触れた。
 1週間も連絡しなくてごめん。
 でも秋の気持ちこんなに聞けて、嬉しいよ。
 秋はそのまま私を部屋に引き入れた。その瞬間、私には世界がスローモーションで動いているように見えた。
 ゆっくりと閉まるドアの音に紛れて、秋は言った
「会いたかった」
作品名:会いに 作家名:雨谷 ハル