想像をプレゼント
奇妙だが、捨てるわけにもいかない。白い紙で包装され、赤いリボンで飾られた箱は、あきらかに贈り物だった。本当は贈り主が正体不明の時点で開けずに捨てるか警察にもっていったほうがいいということは分かってはいたが、もし職場の同僚とかがサプライズで贈ったものだとしたら、可哀想だ。それに、中身が気になって仕方がない。
手に持っていたかばんをおろし、そっと箱を手にとってみた。軽いとも重いともいえない。ただしんなりと手になじむような重さで、爆弾とかではないことは分かった。まあ、自分に爆弾を仕掛ける理由も分からないけれど。
ケーキとかだったら困るなあと思いつつ、優しく振ってみる。音はしない。もう少し強く振ってみる。やはり音はしない。何かがずれたような感覚もないから、箱の大きさにぴったりとしたものであるようだ。それか、中のものが動かないよう発泡スチロールなどで固定されてあるとか、クッションが入ってるとか、そんな感じだ。
遂にひもを解いて、中身を見ることにした。多分大丈夫だろう。それに、中身がとても気になる。実際にはたいしたものではないかもしれないが、こんなにどきどきしたのは久しぶりだ。それだけでも、プレゼントとしての価値はあった気がする。
赤いリボンのひもの端をゆっくりとひっぱる。静かなひものこすれる音がして、赤いリボンはほどけていった。流れるようにリボンが滑り落ちていく様は、見ていて何となく楽しかった。
紙はセロテープでとめられていた。ちょっと意外だった。持ち上げたり振っていたりしたときは気付かなかった。では何を使ってとめられていたのかと思ったのか、と聞かれると、何も考えていなかったと答えるしかない。ただ、漠然と包みは紙でしか構成されていないように感じていたのだ。白い紙と赤いリボンだけで包装されていると思っていた。
謎を解き明かしていこうとするようなどきどきした気持ちを少し邪魔された気分になりながら、丁寧に袋をほどいていった。セロテープも紙が破れないように取り除いて、丸めて捨てた。
そして現れたのは、黒い箱だった。先程までの高揚感が戻ってきた。しかし、その黒い箱を手に取った瞬間、その意気は失われていった。
変だ。
変な箱だ。
無意識に開け口を探しながら手に取り、呆然とした。切れ目がない。開け口がない。
静かにその箱を観察した。手に掴んだ箱を、ゆっくりと回した。黒いマジックペンで塗りたくったような色が、箱の六面全てにあった。だが、それにしてはむらがないし、質感もダンボールのようなものを入れて置く箱の紙質ではなかった。かといって、プラスチックとかガラスとかでもない。
不思議な箱だ。
それ以上の観察はやめた。ハンマーで叩いたりすれば中身が取り出せるかもしれないが、そんなもったいないことはしたくなかった。
プレゼントはこの箱だ。それでいい。これだけで十分面白い。
その黒い不思議な箱は、棚の中に飾っておくことにした。何気なく置かれているような感じがとてもいい。普通にありそうで普通でないところがいい。この箱を見るたびに、この箱は何か、中身は何かと、色々考えることになるんだろうなあとぼんやり考えた。
Give your imagination.