幸せの形を猫が教えてくれた
そこは飲み屋が軒を連ねる繁華街。あまり人が通りそうもない細い路地に、双子のような白い猫が二匹、寄り添いながら寝ている。
そっと、近づいた。 一匹は気づいて起きたが、慌てて逃げたりしない。きっと飼い猫だからだろう。触ると、ちょっと警戒するかのように手を出す。が、決して攻撃的はしない。「変なことはしないでよ” 」とお願いしているかのようだ。
背中や耳を撫ぜると、嬉しいのか眼を細める。お腹を撫ぜても、尻尾を触っても、怒らない。
何を思ったか、しゃがんでいる自分の股の隙間にゴロンと身を横たえた。それを見ていたもう一匹も同じようにゴロン。実に人懐っこい猫である。きっとこの界隈を通り過ぎる酔っ払いにも人気があるだろう。
やがて、二匹の猫は自分の存在を忘れたかのように、互いに頭や背中をなめ合った。うっとりとした顔をしている。なめあうことで互いに親しみを感じているのであろう。やがて、やや小さい方の猫がもう一匹の猫の下腹を頭で突っつき始めた。
兄弟なら、じゃれあいであっても、“くすぐったい”と言って離れるか、相手の頭を叩いたりするのが何もしない。変だな、と思ってよく見ていたら乳首を出しているのだ。乳首を見つけると吸い始めた。まるで兄弟のように見えたが、実は親子であったようだ。母親に近づいた大きさになっても、子供は母親の乳が欲しいのだ。それは甘えの一形式かもしれない。
母親は目を細め、まるで気持ちいいと言わんばかりの顔で、横たわっている。乳首は二つあった。その子はわざわざ吸うのがむずかしい下の方ばかりを吸っている。動物は何匹か生まれた時、自分の吸う乳首を決めるために争い、一旦決まると、二度と変えることはないと聞く。
もう一匹いるはずと、あたりを見回し探すと、確かにもう一匹が少し離れた物陰にいた。気持ち良さそうに寝ている。
互いに寄り添いながら、一緒に食べ、一緒に眠る。素朴だが、そこに幸せがある。猫の親子はそれを教えてくれた。
作品名:幸せの形を猫が教えてくれた 作家名:楡井英夫