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物体もじ。
物体もじ。
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幻想水滸伝ダーク系20題

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03 / 嘘つき



 遠くを見ていたことを、覚えている。

 あいつと二人、腰まで草に埋もれて、何をするわけでもなく、遠くを見ていた。


 風に吹かれたバンダナがゆれて、握った右手が妙に、くすぐったかった。


「沈むな」


 言ったあいつは、それでも、薄茶色のはずの髪を真っ赤に染めたままで、動こうとはしなかった。

 自分だけが動くのは癪で、けれど、不安、のほうが勝って。


 隣をうかがう視野に、さらしたままの髪が、邪魔だった。


「……ルイ」


 ぎこちなく、こちらを向いたあいつの目は、薄茶色のはずなのに、揺らぐ太陽の色を受けて、まるで、踊る蝋燭の炎をそのまま閉じ込めたみたいで、そのくせ、馬鹿みたいに、静かで、冷めていて。


「帰らねえとな」


 尋ねたかった。



―――どこへ?



 宙に浮いたまま、もう問うこともできない、それを、そのときも、口の中だけで、噛み潰していた。


「早くしねえと、門、閉まっちまうしさ。グレミオさんも心配してる」


 ふつり、と消えるように、太陽がその姿を隠してしまって、さわさわと、ゆれる草の音と、陽炎のようなあいつの残像だけが、頼りだった。


「ルイ」



 ほんとうは。

 繰り返していた。

 何回も、何回でも。

 ずっと、繰り返していた。




「……うそつき」






 帰るところは、あのきらびやかな帝都などでは、なかったくせに。

 ほんとうは、ずっと、このままどこかへ飛んでいくことを考えていたくせに。

 自分というしがらみを、忘れ去る瞬間が、あるくせに。



 どうして、そのままどこかへ行ってくれなかったのだろう。

 どうして、遠くを見たままでいなかったのだろう。

 どうして、自分を顧みたりするのだろう。



「おまえは、うそつきだ」



 帰らないと、なんて、どうせ思ってもいないのだ。

 それでも、自分に期待させるのだ。


 そして、なのに、自分は。



 そんな、あいつの嘘が、嬉しくて、たまらなかったのだ。